これも家族の崩壊と再生を描いた物語といって良いのだろうか。
法律学者でテネンバウム家の当主ロイヤルは、突如妻エセルとの離婚を子供たちに告げる。
エセルに引き取られた子供たちはそれぞれ、長男のチャスは天才ビジネスマン、養女のマーゴは劇作家、次男のリッチーは名テニスプレイヤーとして活躍していく。
しかし月日が流れ、事故で妻を亡くしたチャスはノイローゼ気味になり、二人の息子に避難訓練を無理強いする。
精神学者のラレイと結婚したマーゴも、バスルームに引きこもり誰にも知られずにタバコを吸い続けている。
テニスの試合で嘘のようにボロ負けしたリッチーは選手を引退するが、実は彼はマーゴへの秘めた恋心に苦しみ続けていた。
そして破産したロイヤルはホテルを追い出されてしまう。
彼はもう一度家族をやり直すためにエセルの前に姿を現す。
末期癌により余命6週間と宣告されたことを告げて。
とっくに愛想を尽かしていたはずなのに、エセルはロイヤルの告白を聞きショックを受ける。
そして会計士のヘンリーからプロポーズをされたばかりなのに、彼女はロイヤルを受け入れてしまう。
子供たちももちろん余命わずかとはいえ、勝手に出ていった父を簡単に許せるはずがない。
ロイヤルはチャスの子供たちを引き込み、何とか家族の絆を取り戻そうとするが、やがて末期癌というのは嘘であることがバレてしまう。
ロイヤルは嘘を認めながらも、家族と過ごせた6日間は最良の日であったと告げるのだが。
とにかくロイヤルのろくでなしぶりが面白いが、ろくでなしなのは彼だけではない。
リッチーの親友のイーライは隠れてマーゴと関係を持っているし、マーゴの男性遍歴も凄まじいものがある。
人生に失望したリッチーは盛大にリストカットをしてしまうし、チャスの愛犬は暴走したイーライの車に轢かれて死んでしまう。
無茶苦茶な人生模様を描いた作品なのだが、どこか登場人物に憎めない愛らしさがある。
エレベーター係として再就職したロイヤルが晴れやかに離婚届をエセルに渡すシーンは印象に残った。
ヘンリーのことを口汚く罵っていたのに、最後は二人の結婚を祝福するのだ。
家族になりたいという願いを手放すことによって、ようやくロイヤルは家族として受け入れられたのかもしれない。
そして彼はチャスに看取られながら生涯を終える。
ウェス・アンダーソン監督らしいリズミカルで小気味の良い作品で、毒がありながらも絵本のような可愛らしい世界観は既に確立されていたのだなと思った。