ナッシュ曰く、体液を交換する作業とは…。
ネタバレ
天才数学者ジョージ・ナッシュの半生を描く伝記映画。1947年の大学院入学から1992年のノー-ベル
経済学賞受賞にいたるまでの長い物語を、ラッセル・クロウが単独で演じた。映画の苦手のするところは
長いスパンの物語、どうしても複数のキャストを使わざるを得ない。老年期は進歩著しい老けメイクがあるが、
大学院生のラッセル・クロウは微苦笑だがそつなくこなした。
天才数学者となると、映画好きで勉強して来なかった多くの観客には遠い存在。原作のノンフィクションから
ナッシュの統合失調症をだいぶふくらませた感じの脚色となった。当時のマッカーシズム、東西冷戦から
スパイ合戦のアクション映画の醍醐味を注入し、大胆でハラハラドキドキの映画に仕立てた。
映画では早い時点から統合失調症の幻影を見る。プリンストン大学大学院に入学し、寄宿舎に入った彼は、
同部屋のチャールズと出会う。人付き合いの出来ないナッシュにとって、お節介なチャールズは腹を割って
話せる友人となった。しかし現実にはナッシュの幻影。優れた数学の才能を示し、画期的な「ゲーム理論」
を書き上げる。卒業後はウィーラー研究所に採用。ここでも暗号解読に才能を示し、否も応もなく冷戦体制
に利用される。この緊張した状況に、ソフト帽に黒服のパーチャー(エド・ハリス)が近づく。国防総省の
エージェントである彼は、ナッシュにソ連の暗号解読を命じる。秘密基地に案内し、国内の出版物からソ連
の暗号を見つける作業に従事させる。
ナッシュの私生活はMITの講師として安定していた。教え子のアリシア(ジェニファー・コネリー)と結婚し、
普通の暮らしに入るかに思えたが、ソ連の暗号解読熱は高まり、部屋には新聞雑誌の切り抜きが貼り
めぐらされ、異様な光景になった。バーチャーの幻覚は強まり、彼とともにソ連のスパイとのカーチェイスや
銃撃の幻覚さえ見るようになってしまった…。
つくづく映画とは統合失調症のようなもの。出来が悪ければ、ただの悪夢にしかならないが、ロン・ハワード
の手にかかると、実にスリリングなスパイ映画と真摯な伝記映画の良質なハイブリッドとなる。