1997年にオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカルの映画化作品。ジョン・キャメロン・ミッチェルと
スティーヴン・トラスクの共同作業で、ストーリーと楽曲が完成していて、映画化は渡りに船の企画かも
しれない。いわゆる80~90年代の商業ロックの味わいが再現されていて、ドサ回りにはピッタリ。
主人公ヘドウィグの出自がユニーク。旧東ドイツの東ベルリン生まれ。アメリカ軍人と東ドイツ女性との
間の子。軍人の父親は性的に傾斜があり、子供に悪影響があると即離婚となっている。ベルリンの壁が
出来、東西冷戦が厳しくなった。それでもヘドウィグはラジオの米軍放送から流れるロックに大興奮して
いた。美しい青年になったヘドウィグに米軍兵士のルーサーが恋した。ルーサーは転属でアメリカ本土に
戻ることになった。ヘドウィグの母は、自由になるチャンスを逃すな、と性転換手術をさせて女性として
出国する計画を立てる。しかしその手術が悲惨なことになった。男性のシンボルが1インチ残って
しまったのだ。これがアングリーインチ。しかもアメリカでルーサーに捨てられてしまう。
崖っぷちのヘドウィグは、派手なウィッグでドラァグクイーンのロックンローラーに変身する。アングリー
インチの怒りがロックに反映し、唯一無二の魅力を振りまく。
映画はアニメーションで、アリストパーネスの愛の話が紹介される。そもそも一体だった男女が、人間を
恐れる神の仕業で、二つに引き裂いたという。それで男と女の引き合う愛が生まれたという。ヘドウィグ
にとって、完全でない自分を充足させる愛とは何だろう、とロックボーカルに乗せて叫ぶのだった。
一見派手なドラァグクイーンの物語だが、愛を求める切ない心情がよく表現されている。若いギタリスト
のトミーの出現で、ヘドウィグは完全なる愛が完成するかと思いきや、肉体の秘密を知られて別れると
いう最悪の結果になってしまう。トミーは世俗的な成功を収め、ヘドウィグのマイナーなドサ回りは浮き
上がる気配もない。しかしヘドウィグの愛の希求はボーカルに乗って響くのだった。
意外性に満ちた愛の映画で、日本でも何度も舞台化される(Wiki)偏愛ぶりが理解できた。