この世界は解き明かせない謎と偶然に満ちている
ネタバレ
冒頭、偶然が重なって起こった3つの奇妙な事件が紹介される。
偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎな話。
そしていずれも後味の悪さを残す。
おそらく人生で起こることのすべてが偶然の重なりであり、そのすべてが必然なのだろう。
これはロスアンゼルスにあるサンフェルナンド・バレーという街に住む者たちの奇異な人生を描く群像劇。
まずは男向けの自己啓発セミナーで講演中のピックアップアーティストのフランク。
長寿クイズ番組の名司会者で、癌により余命宣告を受けているジミー。
父親であるジミーを嫌悪し、ドラッグ漬けの生活を送るクローディア。
クイズ番組に出演する天才少年のスタンリー。
元天才クイズ少年で雷に打たれたことで頭が悪くなってしまったドニー。
ジミーが司会を務めるクイズ番組の元プロデューサーで、末期癌の治療中のアール。
彼の後妻で薬を大量に処方されているリンダ。
アールの付き添いの看護師のフィル。
そしてロスの警察官ジム。
彼らはそれぞれに心の問題を抱えており、愛されることに飢えてもいる。
フランクはインタビューで出自を偽っていることを暴かれる。
彼は実の父親に対して激しい怒りを抱いていた。
ジミーは死を前に何とかクローディアと和解したいと望むが、余命を聞かされても彼女は父親を拒絶し続ける。
二人の確執の原因は後ほど明かされる。
スタンリーはとにかく父親から過剰な期待をされて育ってきたらしい。
彼は自分が大人の玩具になってしまっていることに異議を唱える。
彼は心の中で自分を大切にして欲しいと叫んでいる。
人生がすっかり変わってしまったドニーもまた哀れな存在だ。
彼は若いイケメンのバーテンダーに恋をしており、彼と同じように歯の矯正をすれば仲良くなれるのではないかと考える。
だが仕事をクビになった彼には金がなかった。
アールは自分勝手に生きてきたこと、献身的に尽くしてくれた前妻を大事にしなかったことを悔いている。
彼は償いのために前妻との間に出来た息子を探して欲しいとフィルに頼む。
リンダは財産目当てにアールと結婚した。
そこに愛などなかったのだが、彼の死を間近にして初めて彼への愛情が芽生える。
そして彼が自分に遺産をすべて残してくれることに罪悪感を抱く。
フィルは一見中立的な立場に思われるが、彼も承認欲求が強い人物なのだろう。
アールから依頼された息子探しに懸命に取り組むが、そのことでリンダに激しく責められてしまう。
この映画の中で少し異質な存在に感じるのが警察官のジムだ。
正義感に溢れているが、どうも一匹狼のようでもある。
彼は通報を受け、クローディアの部屋を訪れる。
そして彼女に一目惚れしてしまい、職務を放棄してデートを申し込んでしまう。
彼は女性経験が乏しいようだ。
彼はこれは神が自分に与えてくれたチャンスだと確信する。
だがピンチはチャンスの形をして現れることもある。
その後、彼は捜査中に銃を紛失してしまう。
クローディアは人に言えない秘密を隠しているために、心の底から相手を受け入れることが出来ない。
彼女はジムにキスをした後に立ち去ってしまう。
外は土砂降りの雨が降り続けている。
とにかくシナリオの構成の巧さに驚かされた。
それぞれに違う場所で起きている出来事なのに、まるですべてが繋がっているかのように錯覚してしまう。
物語がどこに着地するのか分からないものの、すべてのシーンが臨場感に溢れているため画面に引き込まれてしまう。
時系列の入れ替えはないもののクリストファー・ノーランの『ダンケルク』を思い出した。
もっともこちらの作品のほうが制作はずっと先なのだが。
終盤にまさかの展開が待っているが、それすらもあり得るかもしれないと思わせる世界観の作り込みが凄い。
これまた偶然にも登場人物たちがエイミー・マンの『Wise Up』をリレーのように歌い繋ぐ象徴的なシーンも印象深い。
改めてポール・トーマス・アンダーソン監督の才能に驚かされる作品だった。