役所広司と渡辺謙共演、根岸吉太郎監督作、キネマ旬報ベストテン第十位の作品を見逃していた。共演といっても二人は追う者と追われる者、123分の映画の中で、同じ画面で見られるのは、期待したよりも少ない。
役所広司が冒頭見ている街の巨大な広告、聴いているCD、耳の後ろの火傷痕、夜の町で呼び掛ける女…。偶然の再会が切っ掛けで、以前同じ場所にいた人々の過去が浮かび上がる。男が命を張って守ろうとしているものは何なのか。ミステリーを解き明かすような展開に惹きつけられる。
渡辺謙が真実に近づくにつれ、封印いていた過去は重いが、明るみにならなければいいと思ってしまうほど、役所広司の演じるキャラは魅力的で感情移入してしまう。コンサートでの表情がまた素晴らしい。ヴァイオリニストは川井郁子が演じているので、演技はともかく演奏シーンは説得力がある。女優としては、麻生祐未の一途に思い続ける女の泣きが、とても切ない。
暗い海のさざ波のイメージが、何度も登場する。主人公の心象風景である。地球儀と笛に、凝縮された男の思い。海の向こうに行ってみたいという夢は叶うのか。焼津の港が、その答えを知っている。