真実を知ろうとする勇気、秘密を明かす勇気
ネタバレ
検眼士の仕事をしているホーテンスは母親を亡くしたばかりだった。
しかし彼女は自分が養子であることを知っていた。彼女の養父も彼女が幼い時に亡くなっていた。
身寄りのいなくなったホーテンスは自分の産みの親を探し出そうとする。
真実を知ることが決して幸せな結果に繋がるわけではないと知りながらも。
写真スタジオで働くモーリスは妻のモニカと二人暮らし。二人の仲はうまく行っていないようで、モニカは一方的にモーリスに対してピリピリしている。
モーリスの姉シンシアは娘のロクサンヌと二人暮らしをしているが、こちらもあまり仲は良さそうではない。
一方的に喋り通しのシンシアにロクサンヌは苛ついており、恋人のポールが尋ねてきても母親には紹介しようとしない。
シンシアは常に不安定で闇を抱えた人物に思われる。
ここまで登場した彼らの人生がどのように交わっていくのか最初は見当もつかなかった。
少しずつ秘密が明かされていく様は、まるでサスペンス映画を観ているような緊張感があった。
ホーテンスは自分の本当の母親の居所を見つけ出すが、出生証明書に書かれている事柄に驚かされる。
ホーテンスは黒人なのだが、母親の表記は白人になっていた。
そしてその母親はシンシアであった。
シンシアは余程男運が悪かったのか、ロクサンヌも私生児であり、結婚をすることは一度もなかった。
シンシアはホーテンスからの電話を受け、最初は彼女と会うことを拒絶する。
彼女は里親に出した子供がいることを誰にも話していなかった。
彼女は秘密がばれてしまうことを恐れていた。しかし彼女はホーテンスと会うことを決める。
ホーテンスの姿を見た時は、自分の娘だという事実を受け止められなかったシンシアだが、やがて忘れたくもない記憶が甦る。
シンシアはホーテンスに父親のことを聞かれるが、どうしても話せないと拒む。
娘からは愛想を尽かされ、弟のモーリスも自分の元を訪ねてくることはない。
そんな孤独で寂しい毎日を送るシンシアは、やがてホーテンスと会うことが一番の楽しみになる。
いつでもあなたの事を思っているとシンシアはホーテンスに愛情を注ぐ。
そして彼女はモーリスの家で行われるロクサンヌの誕生日パーティーに、ホーテンスを自分の友人として招待する。
しかしそれが思わぬ人間関係の分裂を招いてしまう。
脚本なしの即興芝居で撮られた映画だと聞いて色々と納得した。
静かな映画なのだが場面場面の臨場感が凄い。すべてのドラマがとてもリアルなのだ。
誕生日パーティーで料理を取り囲む彼らのやり取りは、緻密な脚本があったら成り立たないだろう。
あまりにも幸せな時間につい感極まったシンシアは、ホーテンスが自分の娘であることを明かしてしまう。
しかしこのタイミングでの彼女の告白は誰のためにもならなかった。
誕生日パーティーを台無しにされたとロクサンヌはポールを連れて飛び出してしまう。
シンシアはとても弱くて哀れな女性だ。誰かに媚びなければ生きていけないような人間だ。
そこが哀れであり、腹立たしくもある。
彼女が不用意に明かした秘密によって、皆が気まずい思いをしてしまう。
しかし結果的には秘密を明かすことによって、思わぬ形で家族間にあったわだかまりが溶けることになる。
シンシアはモニカに対して、彼女こそ自分から家族を奪った元凶であると逆恨みをしていた。そしてモーリスとの間に子供を作らないことを責める。
しかしモニカは自分が子供を産めない身体であることを初めて告白する。
その秘密がずっと夫婦の間にもわだかまりを作っていたのだろう。
シンシアはロクサンヌに父親のことを明かす。これもずっと今まで隠してきた彼女の秘密だった。
最後までホーテンスの父親の秘密は隠したままだったが。
人間誰しも秘密と嘘はあるだろうし、すべてを明かすことが必ずしも人を幸せにするとは限らない。
しかし大きな秘密はいずれ人を不幸にしてしまうものでもあると思う。
秘密が明かされたことによって、最終的にホーテンスは家族の一員として迎えられる。
それは真実を知りたいと行動を起こしたホーテンスの勇気が起こした結果だと言ってもいい。
ずっとうだつの上がらない男だと思っていたモーリスが、実は一番思いやりがあって暖かい心を持っているというのがとても感動させられた。
本編とは関係ないように見えて、彼がポートレートを撮るシーンが多数挿入されていたのは、後から考えるととても効果的だった。
自分の一番良い部分を写してもらおうとする人、仮面を被っている人、ありのままの姿を写してもらおうとする人、写真を撮ってもらう人の姿は様々だ。
彼らの姿を通して、モーリスという人物の魅力が浮かび上がってきたように思う。
ラストに向けての求心力が凄く、見応えのあるドラマだった。