久しぶりの再見。
大ベストセラーの映画化、絶妙のキャスティングを得て、森田芳光としては大ヒットを狙った映画であるが、その通り大ヒットして、後にテレビドラマ化もされた。
共に家庭を持つ二人の男女が、お互いに惹かれて、求めあう。普通なら、そういった状況で発現する障害(妻(夫)に対する罪悪感、世間に対する引け目)と主人公との軋轢が、ドラマを生み出し、そのドラマを軸に物語が進むのだが、映画はそうなっていない。主人公である久木も凛子も、二人の関係を積極的に隠そうともせず、むしろ自らの想いに忠実に生きようとする。彼等にとって、周りは全く眼に入らないようである。従って、映画としては、際立ったドラマはなく、むしろ熱い二人の想いを中心に、物語が展開する。森田芳光は、この荒唐無稽な物語を映画化するにあたって、徹底してドラマを排して、二人の想いだけに絞り込むことで、ある種のメルヘンとし、映画として成立させる道を取っている。それは、ある意味では正解であり、また一方で、食い足りないところにもなっている。
確かに、「幸せすぎて怖い」から心中するという展開を観客に映像で納得させるには、映画の中身を非現実的にしなくては難しい。しかし、一方で、非現実的な物語は、娯楽作としては受け入れられない。それを両立させるために、主人公二人の愛情に絞り込みんだのだろう。これをもっと非現実化してしまうと、「髪結いの亭主」になり、面白みが出てくる。ドラマを盛り込むと、何だか2時間ドラマのような安っぽいものとなってしまう。そういう意味では、ギリギリの選択かも知れない。
森田芳光の演出は、今作でも冴えている。どうやら、スランプは完全に脱出できたようだ。全編を通じて、役者の表情を見せるカットが多いが、伊丹十三とは違い、あっさりした感じが強く出るのは、カットを非常に細かく割っているからであろう。カット割りを細かくすることで、画面にリズムも出ている。カットの間に挿入されるモノクロの画面も、非常に魅力的だ。(最初の逢瀬、義父の死んだ日の逢瀬)また、カメラも、フィックスよりも、移動を多用することで、画面に変化を持たせてる。(移動では、海に浮かんだ島を背景にしたお風呂場でのSEXシーンで、カメラが回るところ、久木と娘が会話するところをクレーンで撮ったシーン)また、美術もいつもの森田作品らしい無機質な感じがいい。(特にラストの心中場面での部屋)ドラマのない映画を持たせているのは、彼の演出だ。