原田芳雄が越路吹雪に扮して歌う「愛の讃歌」がすべて
つかこうへいの同名戯曲が原作。
ドサ廻りの北村宗介一座の物語で、座長(原田芳雄)の内縁の妻レイ子(藤谷美和子)は一座のトップスターだが、しょっちゅう座員と駆け落ち。それで座長の綽名が寝盗られ宗介だが、心優しい宗介はそれも芸の肥やしと黙認、寝盗った座員にもお礼をするお人好しで、座員に上カツ丼を食べさせて自分は並で我慢するという出来た人柄から座員に慕われている。
それもそのはず父親(玉川良一)は妻妾合わせて50人の子供がいるという金持ちで、跡を継いだ弟(佐野史郎)からいつでも金を引き出せるくらいに育ちがいい。
物語は、座員のジミー(筧利夫)の腎臓移植、あゆみ(久我陽子)のスカウト話、レイ子とジミーの駆け落ちなどのエピソードを織り交ぜながら、地元・角館の公民館の杮落とし公演とレイ子との結婚式を軸に進む。
ストーリーは正直つまらなく、寛容な宗介と浮気で心を引き留めておきたいレイ子の屈折した愛の関係と成就がテーマという、小劇場にありがちな芝居で、若松孝二もこの手の作品に向いているとは思えず、富士山をバックにしたラストと、農村シーンが頑張っているくらい。
うだうだした気持ちで見ていると、原田芳雄が越路吹雪に扮して「愛の讃歌」を歌うシーンで突然雷を受けたような衝撃が走り、他のシーンをすべて忘れるくらいに引き込まれる。
このシーンを見るだけで十分に価値があるが、ならば他の100分は何のためにあるのかということになる。(キネ旬8位)