シネマヴェーラ渋谷の新東宝特集「恋の蘭燈」は、白光という中国女優を中心としたメロドラマですが、わたくしは初めて観たこの女優が、ちょっと高橋とよに面立ちが似ていて、ヴァンプなら似合うかも知れないものの、メロドラマのヒロインが相応しいとは思えず、その違和感が終始付きまとっていた事は否めません。
この映画での白光は、中国人の亡父と日本人の母の間に生まれ、今は横浜のクラブで歌手をしながら、戦時中に別れたままの日本人母を探しており、彼女の事を片想いしているチンピラ森繁久彌が、実業家夫人の座に収まっている夏川静江が白光の母親だと突止めるものの、訪ねた森繁に対して夏川は、娘はいないと否定する、という展開を示します。白光扮するヒロインは、実母だと思った夏川静江から冷たい反応をされて傷付く一方、夏川の再婚相手である伊志井寛の連れ子・池部良から想いを寄せられるという展開となる中、白光と彼女が持つ宝石を狙っているヤクザのボス中村哲が、言葉巧みに白光を中国に連れ帰るという話を持ちかけます。
「恋の蘭燈」は、井手雅人と監督の佐伯清が書いた脚本が、まあ紋切り型の展開だとはいえ、破綻はせずに収まるべきところに収まっており、佐伯清演出も手堅く、水準作にはなっています。
森繁が歌う“銀座の雀”、中村哲の子分を演じる須藤健の若さ、又してもチョイ役ながら出番は多い清川玉枝など、細部が楽しめる映画ではありました。