太宰治が戦後すぐに発表した小説「パンドラの匣」を映画化した「看護婦の日記」は、数年前に冨永昌敬がリメイクした時に染谷将太くんが演じた感受性豊かなサナトリウム患者役を小林桂樹が、彼が憧れる看護婦で川上未映子が演じた役を折原啓子が、主人公青年を甲斐甲斐しく世話する看護婦で仲里依紗が演じた役を関千恵子に演じさせた映画です。
現実から逃避するようにサナトリウムの患者となっている変人たちと、彼らを世話するようでいて実は身勝手なおしゃれに現を抜かす看護婦たちが、お互いをあだ名で呼び合う奇矯な物語世界。それは、太宰的にカリカチュアライズされた戦後世界の縮図に他ならないことが、今回初めて理解できたのですが、それは、太宰が存命中の戦後2年目の空気を、この映画のあらゆる細部が実感を伴って描いていたからでしょう。冨永版のほうも太宰版「カッコーの巣の上で」のような雰囲気があって面白かったものの、戦後間もない時期の人々が共有した開放感や諦念までは伝えていなかったところ、この映画には作者たちも役者たちも、まさしく戦後間もない時期を生きている実感を、身体全体で表現しているのであり、まあ47年に製作された映画なのですからそれは当り前のことには違いないとは言え、そうした戦後の実感が映画を通して確実に伝わったことは確かです。