成瀬監督の作品を年代順に見てきて、やっと戦後第一作まできました。たぶん、鶴八鶴次郎あたりから、ラブストーリー系が消えてしまい、戦時中は芸道、子供、道徳ものといった内容で、表現することが不自由な中で、良い作品ではあるものの、どこかもどかしい感じが漂っていました。そして、ここにきて最初の放送局の場面を見て、かつての思い切った表現が戻ったような気がして、一気に晴々とした気分になりました。それがこの作品の何よりもいいところだと思います。
高峰秀子の新聞記者の登場で、フランク・キャプラの「群衆」を想起し、前半は「群衆」のストーリーに沿った展開が続いていきます。そして、藤田進を囲む高峰秀子と山根寿子の場面から、いかにも成瀬巳喜男監督オリジナルな感じになっていきます。山根寿子のエピソードは、ストーリーの中で浮いているとはいえ、ここに割って入ってくる山根寿子に、成瀬監督らしさを感じました。
そんな「群衆」のリメイクみたいな作品ですが、ラストに向かって教条的になっていくのが難点。そこまで主義主張を言葉で話しますか?というところですが、戦中に植え付けられた思想を一気に逆転させるには、当時必要なことだったのでしょう。ここには戦中と同様の国策的なやり方を感じます。最後に杉村春子が演壇に立つとことなど、なんでお前が?おかしいだろ!というところですが、果たして、本人納得して演じていたのでしょうか?不思議です。作品中の幾つかのウラシマの絵は、さながら毛沢東かスターリンかというところです。本来成瀬監督の映画は政治色は薄いですから、本当に監督らしい作品が作れるようになるには、もう少し待たないといけないようです。