「鹿島灘の女」は10数年前にフィルムセンターで観たことがあり、細部は忘れたものの地味な米作り映画だという印象しか残っておらず、つい先日同じ舞台を描いた今井正の「米」を観たこともあって、ラピュタ阿佐ヶ谷の東映東撮特集で観直すことにしましたが、悪い映画ではないにせよ、地味で記憶に残りにくい映画ではありましたので、細部を忘れたのも無理はないかも知れません。
霞ヶ浦近くの貧農の息子や娘が、自分の家の田んぼを耕すだけでは食っていけないので、豪農の家の稲作を手伝う“援農”として働くという題材ですから、「米」とイメージがダブるのであり、双方が江原真二郎を主演にしているだけに、余計二つの映画がこんがらがるということになります。
しかし、「米」のほうは江原とは次男坊仲間の木村功の誘いによって、“帆曳き”という漁法を始め、嵐の中で木村は杭に絡まって溺死するという展開を示すのに対して、この「鹿島灘の女」のほうは、監督兼務の山村聰扮する豪農の田んぼを、江原を始め、彼と相思相愛の春丘典子、それに中村是好、花沢徳衛、織本順吉、三宅邦子といった“援農”の人々が耕し、刈り取るという話がメインとなります。
監督兼務の山村聰は、「蟹工船」「黒い潮」など、旧サヨク的な映画を撮ってきた人ですから、この八木保太郎脚本の農村映画にもお似合いですが、△印映画ゆえ単純に“地主は悪、農民は善”などというサヨク的図式のお話にはしておらず、まさに今井の「米」の続篇といった趣の映画になっています。
山村聰は、役者としては日本の名匠巨匠に重用される名優です(黒澤映画だけは出ていません)が、監督としては独立プロと日活で撮るチャンスがあったものの、その後機会を逸していたところ、東映娯楽映画の脇役をせっせとこなしたことが買われたのでしょうか、「母子草」「鹿島灘の女」「風流深川唄」を東映で撮れました。