神保町シアターで初めて観た吉村公三郎「電話は夕方に鳴る」は、“大映の男優たち”という今回の特集テーマに相応しく、千田是也、伊藤雄之助、殿山泰司、中村是好ら、新劇やフリーの役者たちに混じって、東京撮影所の所属する大部屋男優の総動員と呼べるほど、観たことのある顔が揃っていました。
千田是也扮する市長のもとに掛かってきた“50万円を用意しないと家族に災難が降りかかる”という脅迫電話をきっかけに、広島の隣にあるという設定の“広岡”という架空の小さな街に巻き起こる珍騒動を描くサスペンス・コメディという題材は悪くないし、唯一犯人を見つける市長秘書の小野道子が、古今東西のミステリー小説を読み漁っている推理オタクという設定だったり、市長の娘・仁木多鶴子が高校生仲間と密かに革命ごっこに興じているという設定だったりも、面白いとは思い、新藤兼人脚本らしい創意に富んでいます。
しかし、市長の脅迫事件を機に街の膿が炙り出され、街が一歩浄化を果たすという展開の話でありながら、浄化の具体は所詮、夜の盛り場でたむろする不良たちの摘発程度にとどまっており、政治とヤクザの癒着を暴くとか、政治とカネの関係が露わになるとか、政治の言いなりになっているマスコミのだらしなさが明らかになるとかいった、具体的な成果は示されず仕舞いである点や、犯人探しという面では映画の早い段階から、市長の元運転手ながら今は失業中という杉田康の弟で、東京での仕事に失敗して久しぶりに帰郷したという設定の野口啓二に焦点が当てられるなど、底が割れている点、さらには、犯人の脅迫電話に対する警察の対応がワンパターンな点(大掛かりな捕り物準備を進めては、犯人の肩透かしを食う)など、不満もありますし、吉村演出に彼らしいテクニックが出ていない不満も覚えます。
とはいえ、大山健二、高村栄一、伊東光一、花布辰男といったヴェテランは勿論のこと、杉田康、夏木章、早川雄三、飛田喜佐夫、中条静夫、守田学ら中堅どころ、石井竜一、三角八郎、大川修ら若手、さらには、クレジットに出ていたかどうかもわからぬ三田村元、藤巻潤など、大映多摩川の大部屋俳優は勢揃いでした。