ラピュタ阿佐ヶ谷のSP特集で初めて観た「俺は情婦を殺す」は、トンネルを抜けた先に駅ビルが見える地下鉄銀座線渋谷駅に向かう車内先頭に据えたキャメラの画面から始まり、電車から降りたバッグを持った男の顔を見せずに彼を追い、男が親分伊藤寿章の家に乗り込み、男と伊藤が揉み合った末、伊藤が自らを撃って死んだ時、男が初めてアップになるという冒頭の展開が見事です。
「俺は情婦を殺す」は、お話自体はステレオタイプで先が読めてしまいますし、終盤、弘松三郎が南風夕子に向かって経緯を全て台詞で説明するあたり、脚本が弱いですが、野口博志の作る画面はいつもながらショットの連なりが的確で、実に締まりの良いSPに仕上げています。