いれずみ判官シリーズの堂堂13作目、「火の玉奉行」であります。一体どの辺が「火の玉」なのでせうか。盆暗のわたくしには分かりませんでした。監督は三作連続で深田金之助。プログラムピクチャの何たるかを知る職人。脚本に東映時代劇の主力ライターの一人、結束信二が担当してゐます。いれずみ判官シリーズは意外にも本作だけの参加。
始めの舞台は二条城。島津・黒田・鍋島の各藩主の血判のついた江戸城抜穴の図面をネタに、塩谷遠江守(市川小太夫)、鎌沢因幡守(岡譲司)の二人が各藩の弱みに付け込んで強請り集り行為をしてゐます。しかし証拠を掴めず、北町奉行・遠山左衛門尉景晋(明石潮)は、役目を果してゐないといふ事で、暇を出されてしまひます。長男・金四郎(片岡千恵蔵)は京都へ飛び、祇園のある茶屋で板前として潜入してゐました。
塩谷、鎌沢両名は絵師の前田柴山(薄田研二)に偽の図面を描かせ、骨董商の伊吹屋(柳永二郎)に仕上げをさせた上で二人を殺害しました。更に影でワルどもを操る総本山・京都所司代の牧田備前守(月形龍之介)は、鳥取の池田相模守(江原真二郎)を一万両で買収せんとしますが、これが失敗。相模守は清廉潔白の士だつたのです。
金さんは住職に変装し、相模守の名代と偽り塩谷、鎌沢らと対峙しますが、これがバレてしまひ大立ち回り。弥三郎(原健策)と名乗る、何かと金さんの周辺に出没してゐた男が此処で現れ、絵図面を奪ひ取ります。傷つきながらも金さんと共に消えるのでした......
ワルどもはいつもの面子。親分の月形龍之介以下、市川小太夫・岡譲司に加へ、阿部九州男・富田仲次郎らが暗躍。一方いつもワルの薄田研二や柳永二郎が犠牲者となります。原健策もいつもの悪のイメエヂを逆手に取り、実は藩主に忠実な正義感でした。江原真二郎も、先達の悪が露見してそれが原因で御家断絶とならうとも、不正に加担は出来ぬと清潔過ぎる対応。やるねえ。
女優陣は可憐な桜町弘子・雪代敬子に加へ鉄火芸者の浦里はるみ。夫々適所と申せませう。皆金さんにホの字なのは当然。コメディリリーフにトニー谷。眼鏡もそろばんもありませんが、そつなくこなしてゐます。また、「長脇差奉行」に続き花柳徳兵衛がゲスト的出演。
肝心の千恵蔵金さんは相変らず大車輪の活躍。多羅尾伴内よろしく変装して潜入捜査し、事件を解決します。板前をこなし伝書鳩で情報を江戸へ流し歌舞伎の黒子を務め大住職に変装する。炎に包まれ大ピンチに陥つても、水音を聞き(あんな劫火の下でよく聞こえるものだ、などと云つてはいけません)脱出の糸口を見つけます。
そしてクライマックスのお白州。水戸黄門と同じく、パタン化されてゐますが、否それだからこそ、当時の観客は愉しみにしてゐたでせう。「金さんなる者」を出せと五月蝿いワルどもに、桜吹雪を披露するこの場面の為に存在するシリーズと申せませう。