大川橋蔵主演、1958年公開の「緋ざくら大名」であります。原作は明朗時代劇の代名詞・山手樹一郎。監督は加藤泰、脚色は斎木祝、音楽は高橋半といふ顔ぶれ。
桑名松平家の次男坊・千代三郎(大川橋蔵)は、さるお姫様との縁談を嫌ひ、家を飛び出して庶民と共に暮らしてゐます。浅草の芝居小屋で太鼓なんか叩いて気楽なものです。一方北条家のお姫様・鶴姫(大川恵子)もやはり縁談を押し付けられ、逃げ出しました。家来が追つてきますが、居合せた千代三郎が匿ひます。
北条家ではワル家臣の馬場三十郎(加賀邦男)が、鶴姫の親戚筋の紀五郎(立松晃)を北条家当主とすべく暗躍、現当主の信濃守(明石潮)を毒殺します。明石潮はこんな役柄が多い。その責を北崎外記(大河内傳次郎)になすりつけ、幽閉します。後は鶴姫を力づくでも連れ戻すだけ。しかし千代三郎がそれを阻み、長屋での大立ち回りで撃退するのです。
北崎外記も、忠臣・藤尾圭之介(尾上鯉之助)の働きで救出され、目出度く一件落着。結局千代三郎と鶴姫は定められた政略結婚に臨みますが、式の直前になつて二人とも逃げ出してしまふ。千代三郎と鶴姫は既に互ひを想ふ仲になつてゐたのです。夫々が相手を求めて長屋で再会する二人でしたが、実は両家が決めた縁談と云ふのは......(以下予想通り)
原作が山手樹一郎なので、どう演出しても明るくなる題材。若様と姫様が夫々の縁談を嫌つて逃げ出すと云ふ展開が、ほぼ結末が予想できる物語です。橋蔵もやんちやな若様を愉しさうに演じ、ファンサ―ヸスに努めてゐます。相手役の御俠な大川恵子も適役。
脇を固める尾上鯉之助、波島進、千秋実、杉狂児らも盤石の演技を見せます。故里やよいも橋蔵への淡い想ひを秘めた好演。大河内傳次郎は余り役に立ちません。
ワル側は加賀邦男、立松晃、海江田譲二、浦里はるみらですが、もう一枚カシラに進藤英太郎や山形勲級が欲しいところです。ところで激しく同情するのが、お照役の若水美子。大川恵子の我儘により命を削る思ひをしました。鶴姫は彼女に特別の褒賞を与へて頂きたい。
加藤泰も敢てローアングルなどの個性は返上して、明朗東映時代劇の一作として製作した感じです。1958年と云へば、日本の映画人口がMAXに達した年。空前の11億2千万人と云ふ動員数を記録しました。本作も映画が娯楽の王様だつた頃の波に乗つた、誰もが幸せな気分になるシャシンと申せませう。通俗で良いのです。志の低い「低俗」は困りますが。