三隅研次監督×市川雷蔵主演、1957年製作・公開の「桃太郎侍」であります。原作は山手樹一郎、脚本は八尋不二、音楽は斎藤一郎。総天然色スタンダード、86分。
桃太郎(市川雷蔵)と名乗る剣豪の素浪人は、実は若木家の若殿新之助(市川雷蔵=二役)と双生児として生れましたが、双子を不吉とする当時の風習から弟の新二郎(桃太郎の本名)は里子に出されました。しかしそんな暗い出自の影も見せず、明朗で誰からも好かれる好青年。掏摸から足を洗つた伊之助(堺駿二)も桃太郎の気風に惚れ、何かと桃太郎と行動を共にするやうに。
サテ若木家では次席家老の鷲塚(杉山昌三九)が若殿新之助を差し置いて、妾腹の子でまだ幼い万太郎(山本順太)を世継にして自ら実権を握らうとしてゐました。お家騒動。参謀役の伊賀半九郎(河津清三郎)がシナリオを描き、新之助に毒を盛つて亡き者にせんとしてゐます。
その動きを察した江戸家老・伊織(清水元)は新之助を護衛する事にし、その任を桃太郎に頼むやうに娘の百合(浦路洋子)に命じました。一旦は断る桃太郎ですが、実際に新之助が毒を盛られ瀕死の状態になると、兄の身代りをして若木家のお家騒動を収めんと決心してゐました。
ワル側の半九郎もまた、腕の立つ桃太郎を味方に引き入れんと、元女掏摸の小鈴(小暮実千代)にその役目を命じてゐました......
「桃太郎侍」といへば多分、多くの人は高橋英樹さんのTVシリーズを思ひ浮かべると存じます。底抜けに明るい桃太郎に、陽性で脳天気な三波春夫の主題歌が印象的。犠牲者が出て初めて「......許さん!」と怒りますが、それまでに何とかしろよといつも思つてゐました。この高橋版桃太郎は設定がかなり脚色されてゐますが(あれだけ長期シリーズになれば致し方ないが)、雷蔵の桃太郎は割かし原作に忠実に作られてゐます。
お話は藩の世継を巡るお家騒動に、狙はれる若殿をその双子の弟が救ふと云ふ、何処かで聞いたやうなストオリイですが、二枚目雷蔵の爽やかな魅力が全開で、殺陣も十分に愉しめます。若殿の兄に扮した弟・桃太郎に扮した雷蔵、と云ふ二重の演技です。
共演陣。純情枠ヒロイン浦路洋子は初々しいけれど、やはり妖艶枠ヒロインの小暮実千代が出色であります。掏摸で元元ワルの仲間だつたのが、桃太郎に惚れてしまひ、善悪の間で板挟みとなり、結局桃太郎の大ピンチを救ひ、その最期はまことに哀しいものでした。同じく元掏摸で、やはり桃太郎に惚れる男・堺駿二も、如何にも彼に相応しいキャラクタア。善側の江戸家老に清水元は意外な配役。香川良介はいつもと同じやうな役。
ワル共の中心は河津清三郎。深遠謀略を巡らすかと思つたら、案外抜けたところがあります。クーデターを企てる杉山昌三九の手下として働きました。最初に桃太郎と会見した場面の緊張感が良いですね。ラストも簡単に斬られず、敵役として十分の存在感と存じます。銃の名手植村謙二郎、総髪の剣豪細川俊夫らは余り役に立たず看板倒れでした。
とまれ、雷蔵ファンにとつては、二役で出ずつぱり、剣戟もたつぷり魅せて、まさに一粒で二度おいしい映画と申せませう。