シネマヴェーラの“女性が選ぶ女性映画特集”で上映された「ひかげの娘」。先日フィルムセンターの木下忠司特集、渡辺祐介監督「牝」で、中村伸郎が久保菜穂子と二度もキッスを交わす場面に遭遇し、こんな映画があったのかと驚愕したばかりなのに、その中村伸郎が濃厚なキッスを3回(4カット)も見せ、しかもその相手が香川京子だというのですから、映画史は奥が深いと言わざるを得ません。
香川京子は、母も祖母も芸者という境遇で、“誰の子か判りやしない”という陰口を叩かれ続けて育った“ひかげの娘”を自認する娘であり、水商売を嫌い、実業の男に添い遂げることを夢見ながら、結局は叔母・山田五十鈴がやっている芸者置屋で働くこととなり、幼馴染の土産物屋・佐原健二、言い寄ってくる紙問屋の社員・伊藤久哉、置屋の常連客・千秋実、お互いに似た境遇だと愚痴り合う年上評論家・中村伸郎らと浮名を流し、中村の種か伊藤の種かわからぬ子供を宿した結果、ようやく誠実な学生・仲代達矢と知り合い、彼の励ましで堕胎を耐えた末、新しい人生を歩き始めるという、東宝配給にしては珍しい、かなりドロドロした題材ですが、脚本が新藤兼人だというので、納得します。
手放しで面白いと言える映画ではありませんが、観ておいて損はありませんでした。