月形黄門、第十作目「鳴門の妖鬼」であります。お馴染み伊賀山正光監督。「漫遊記」を付したシリーズとしてはこれが最後で、次作よりグレードアップした新シリーズになります。
鳴門の渦逆巻く四国は阿波の国。浪人・式根十郎兵衛(清川荘司)は道中、賊に襲はれ命を落します。妻のお弓(喜多川千鶴)と幼子のおつるも攫はれさうになるところを、商人四国屋治左衛門(坂東蓑助)に救はれます。しかしこれは罠で、おつるは海に流され、お弓は強引に四国屋の女房にされてしまふのです。
数年経ち、阿波の城主は悪辣な家老に骨抜きにされ政務を疎かにしてゐます。家老は四国屋と結託して悪政のし放題。そんな所へ水戸の御老公一行がやつて来ます。悪事のあるところに黄門あり。黄門さまは商人に化けて、四国屋が違法な取引をしてゐることをつきとめます。それを知つた家老は黄門一行を公儀隠密とみて殺害を計画します。
一方海に流されたおつる(山本千秋)は助けられて、母を訪ねて単身巡礼の旅をしてゐます。黄門さまは彼女と知り合ひ、何かと力になります。お弓はまさか我が子ではないかと、おつるを訪ねますが......
地方で為政者(この場合は家老に操られてゐるが)と商人が結託して悪事をなす、といふ黄金パタン。商人は坂東蓑助ですが、政治家側のワルが大邦一公で、少し弱いですな。それよりも浦里はるみの悪女ぶりが際立ちます。とにかく憎らしく悪知恵が働く。しかし自らの野望を軽々しく口にするなど、少し頭は悪いやうです。
今回の肝はやはり喜多川千鶴・山本千秋の母娘が再会するまでのドラマではないかと存じます。ありふれた物語でせうが、日本人好みのウェットな演出が効いてをります。夫を殺され娘は失踪、自分は好きでもない男に妻にされ、しかも別の悪女が自分を亡き者にして妻の座に座らんとしてゐる。そして折角娘と再会できたのに、夫の仇を知つたために、あゝ...... まあ不幸を絵に書いたやうな人生ですな。かういふストオリイなので、緋牡丹お蝶の出番は無かつたのでせうか。
ところで妖鬼といふのは只の人間が面をしてゐただけです。またゴリラとか狒々みたいなトンデモ動物が出るかと期待(?)すると裏切られます。無論最後は黄門・助さん格さんらの活躍で一件落着。個人的には、裏の功労者として、命令に反しおつるを殺さず舟に乗せたチンピラ共を挙げておきたいと思ひます。
これで「漫遊記」シリーズは終り。助さんとお蝶の関係は尻切れトンボでした。