源氏鶏太の同名小説の映画化であります。春原政久監督作品。脚本は笠原良三、音楽は池譲。
南部産業の南部友助(伊藤雄之助)は、社長の座を娘婿の周吉(市村俊幸)に譲つたものの、依然として口うるさくカミナリを落すので周吉らは辟易してゐます。それで社会事業家の朝倉保乃(北林谷栄)と見合ひをさせるのですが、これが大喧嘩になつて失敗。
その後料亭を営む明石八重子(坪内美詠子)から、彼女の娘・京子(東谷暎子)の就職の口利きを頼まれます。安請け合ひした友助でしたが、周吉は友助自身が決めた情実入社禁止に反すると断ります。さらに周吉の娘(友助の孫娘)・美奈(左幸子)の恋人で建築家の高井(宍戸錠)が、現在の社屋ビルは非効率的なので改装を考へてゐる事を知り、激怒します。今のビルは権威ある有名な建築家によるもので、それにケチをつけるのかとこれまた喧嘩になります。
友助は八重子に会ひに行く途中で京子から、恋仲で南部産業で働く社員の森山(フランキー堺)との事を母に話して欲しいと頼まれます。その話を八重子にした後、今度は逆に相談を持ち掛けられます。彼女に気がある友助は自分に都合の良い解釈をして御機嫌です。その帰途、何とよりによつて朝倉保乃の運転する車に轢かれてしまひました。幸ひ命に別状はありませんでしたが、それから暫くして八重子が姿を消したとの知らせが入つたのです......
伊藤雄之助が隠居した老人役で、当時の彼はまだ37歳くらゐと存じますが、全く違和感なくカミナリ爺さんを演じてゐます。理不尽に怒鳴り散らす様子から、可也嫌な男かと思ひきや、実に可愛らしい爺さんでした。源氏鶏太のユウモワ小説が原作なので、安心して見られます。
振り回される市村俊幸、左幸子が五月蝿い彼の口を封じやうと北林谷栄を紹介するも、直ぐに喧嘩する。そして坪内美詠子に恋心を抱いて、家出した彼女を連れ帰る為伊豆まで迎へに行く。しかし彼女には結婚相手があり、一転して北林谷栄と最接近と忙しいのです。齢相応に落ち着いて欲しいものです。こんな人が実際に身近にゐたら困りますが、映画のキャラクタアとしては爆発力があつて愉快です。
彼の周囲を固める、如何にも婿養子の市村俊幸、元気一杯の左幸子、豊頬手術前の宍戸錠、社会事業家の北林谷栄、伊藤のマドンナ坪内美詠子らも良い働き。フランキー堺は案外目立ちませんが。
第一線を退いたらもう隠居、と云ふ時代に「青春をわれらに」とばかりに暴れる伊藤雄之助、改めて器用な役者だと感じた次第であります。