真山美保の戯曲『市川馬五郎一座顛末記』が原作。
旅回りの芸人一座がヤクザな興行師に公演料ももらえず、不景気な炭鉱町で興行を打たされ、解散に追い込まれそうになるというのが前半の物語。
座長に東野英治郎、娘に津島恵子、その恋人に菅原謙二、悪徳興行主に小沢栄太郎という布陣で、山本薩夫には珍しい大衆演劇を描いた娯楽作ながら、舞台を含めて手慣れた演出ぶりを見せ、ちょっと驚かされる。
この一座が炭鉱町で売り上げを持ち逃げされ、労働組合の支援を受けるあたりから俄かに山本薩夫らしい社会派映画になっていく。
初めは組合をアカだと毛嫌いしていた無学な座員たちが、組合員の労働教育の結果、搾取するのが資本家ではなくヤクザだという違いだけで、搾取される立場は同じだという階級意識に目覚めていき、同じプロレタリアート同士が連帯するという流れになる。
組合が一座に労働劇の公演を依頼し、慣れない新劇を大衆演劇の台詞回しで演じるのがユーモラス。いささかプロレタリア臭が鼻に突くものの、山本の演出が冴える。
一座が興行主の支配を断ち切って、自主公演に旅立つというラストとなる。
組合員に扮する小沢昭一、仲代達矢が如何にもな感じで、ちょっとした見どころ。(キネ旬9位)