新文芸坐の司葉子特集、「愛の歴史」は2013年にもラピュタ阿佐ヶ谷で観たことがありますが、戦時中は愛し合っていた鶴田浩二と司葉子が、戦後離れ離れになって、お互いに想い合っていながらすれ違ってしまうというメロドラマである事は覚えているものの、細部はすっかり忘れてしまっており、テンポが悪いという印象だけが強く残った映画でした。
「愛の歴史」は、「肉体の門」の田村泰次郎の原作を須崎勝弥とヤマカジが脚色し、ヤマカジが監督した映画であり、戦時中、怪我したところを司葉子の輸血で生き延び、司のことを命の恩人と崇める鶴田浩二が、戦後は大陸で流れ者になった末、密輸団の一員となっている一方、司は政治家の伯父・佐々木孝丸の資金集めのため、三門財閥と佐々木が蔑む藤木悠と望まぬ政略結婚をさせられるという境遇に置かれています。しかし、司葉子が藤木悠と結婚して間もなく、藤木の父親・御橋公が経営する会社は倒産しそうになるという有り様です。
主人公である鶴田浩二は戦後、司葉子の消息を突き止めて会おうとする寸前、自分のような犯罪者は会う資格がないと諦めているうちに、司は伯父によって藤木悠との政略結婚をしてしまい、その後に及んでようやく司と再会した鶴田は、司の結婚相手・藤木が金に困っていることを知り、密輸で儲けた金をこの藤木の会社に注ぎ込むことにしますが、密輸仲間は鶴田が勝手に金の一部を使うことを阻止しようとします。
とにかく、司葉子に対する鶴田浩二の煮え切らないキャラも、ピーピー泣いてばかりの司も、夫の藤木悠も、いずれも魅力ない人物像であり、だからこそ映画の流れも煮え切らない、テンポの悪いものに思えるという悪循環をもたらしています。とはいえ、前回観た時よりは、まあまあ観られる映画だったとは思います。
この映画で、好き嫌いは別にしてキャラクターとして立っていたのは、藤木悠の元許嫁でありながら藤木が司葉子の事を一目惚れしたため、フラれてしまうものの、藤木の事を好きだと言い続ける司の従姉を演じた谷崎碧と、鶴田浩二に想いを寄せながら密輸の同志として男言葉で接する小泉澄子の二人だったでしょう。