戦後シリーズの第九作目。監督は佐々木康、佐々木味津三の原作を高岩肇が脚色。時代劇や任侠ものなど、娯楽作一辺倒でシナリオを書いた人です。
今回の舞台は京都。渡辺篤や杉狂児を従へて往来を歩きます。すると、或る女(千原しのぶ)が逃げてきて助けを求めます。追ふのは与力の玄十郎(徳大寺伸)と目明しの源七(龍崎一郎)。彼らから女を救ふ主水之介ですが、直後女は何者かの撃たれて息絶えます。呆気ないぞ千原しのぶ。
この女を逃した事により玄十郎は首になつてしまつたらしい。玄十郎によると、南蛮船から財宝が奪はれたといふ未解決の事件があり、殺された女はそれに関係してゐると。財宝は堺の港まで運ばれたが在処は不明だといふ。退屈の虫が騒ぐ主水之介は、事件の解明に協力する事になりました。
源七は堺の港で張込みをしますが、ワルに目的を悟られ消されてしまひます。源七の娘・おしづ(田代百合子)は仇討ちを誓ひ、怪しいと睨んだ山野幽斎(進藤英太郎)の宅に女中として潜入します。
山野邸では幽斎が命じて能の舞台を普請中。この工事に関つた職人たちが、何故か行方知れずになつてゐるといひます。怪しい。謎の伏魔殿とはこのことか。しかしおしづの目的は知られ幽閉されたと、山室の娘・幾野(若山セツ子)が知らせに来ます。おしづの主水之介に対する恋心を利用して女を危険な目に遭はせるとは、退屈男も大した事はないと難じます。これは幾野の誤解で、主水之介から「生れ変れ!」と一喝されるのですが......
今回退屈男は京に来てゐるため、妹の菊路やその恋人・京弥さまは出番なし。兄の不在を良い事にいちやいちやしてゐるのだらうと杉狂児たちが軽口を叩きます。
いつものやうな勧善懲悪、退屈男の完全無欠なヒーローぶりが痛快であります。いつもの取り巻き(渡辺篤・杉狂児、あと一人二の線の子分は不在)、いつものワル(進藤英太郎・加賀邦男・佐々木孝丸・神田隆)が跋扈し、いつものヒロインが眼を愉しませてくれます。しかし女優陣の使ひ方は些か勿体ないですな。千原しのぶは冒頭で死ぬし、喜多川千鶴もあまり好い役ではございません。田代百合子も捕へられた後は姿を見せない。
その中で、東映お姫様ではない若山セツ子が儲け役でした。「青い山脈」での丸眼鏡の女学生(笹井和子)が印象に残つてゐる人が多いと思ひますが、特撮好きにとつては「ゴジラの逆襲」でのヒロイン(小泉博の恋人役)でせうな。最後は主水之介を庇ふやうに斃れる姿が、哀れを誘ふのでした。実生活でも幸薄い女優さんでしたなあ。