フィルムセンターの新所蔵映画特集・東宝篇、1955年製作、豊田四郎監督「麦笛」は、室生犀星の自伝的短篇小説「性に眼覚める頃」を映画化したもので、寺の息子として思春期を生きる内向的な主人公・久保明が、ませた親友・太刀川洋一に振り回され、彼との絶交を宣言したりしつつも、肺を病んだ太刀川の死に立会い、寺の賽銭を繰り返し盗む妖艶な女・越路吹雪に翻弄されるといった体験を経ながら、密かに想い続ける茶屋の娘・青山京子との健全な男女関係を育んでゆくという、東宝らしい清潔感のある青春物語です。
石坂洋次郎の青春ものの翻案などを巧みに手掛けていた池田一朗が、この原作も巧みに脚色しており(豊田との共同執筆)、豊田の演出も、フィルムセンターの解説文に書かれた通り“この直後に代表作『夫婦善哉』(1955)を手掛けるなど、キャリアの円熟期を迎えており、本作でも、思春期の青年たちの揺れ動く恋心が丁寧に演出されて”います。