シネマヴェーラ渋谷の新東宝特集で初めて観た「悪魔の囁き」は、何やら電波を使って現金受け渡しの指示を出す営利誘拐犯で、劇中では“囁く男”と呼ばれる犯罪者を巡るミステリで、「月光仮面」の作者である川内康範の脚本が行き当たりばったりの代物ながら、原案にクレジットされているのが植草甚一だという点がミソの、珍品中の珍品でした。
「悪魔の囁き」は、冒頭、スピード違反の摘発をしていた警察官が、崖から落ちてくる傘を見つけ、傘の持ち主のところに注意しに行くと、その男は死んでおり、現場検証の警視庁捜査員・細川俊夫と舟橋元が、被害者の耳にイヤフォンが付けられ通信機器入り小箱を持っていたのを見つけ、犯人は“囁く男”だと断定する形で始まります。
メインタイトルとクレジットに続いて、やはりイヤフォンと小箱を持った松本克平が東京駅の公衆電話ボックスで、殺された娘を発見する展開となりますが、冒頭の事件にせよ、二番目にせよ、殺しまで行う必要があったとは思えず、まあ事件を派手に見せたいだけの小手先芸だとすぐに底が割れます。
映画はこのあと、幼稚園の園長・上原謙や先生・筑紫あけみが登場し、筑紫が“囁く男”に誘拐される事件が起き、筑紫の婚約者で美術館職員の中山昭二が事件に巻き込まれる展開となった上、“囁く男”の協力者・角梨枝子も登場すると、観る側には犯人の想像がついてしまい、ミステリーとしても底が割れます。
底が割れた話を荒唐無稽に展開させるばかりですから、愚作と断じてしまえば良い代物ながら、なぜかついつい惹き入れられてしまうのは、ガキの頃「月光仮面」や「エイトマン」に惹かれてしまったような川内康範の力の成せる業か、豪華役者陣の芝居ゆえか、内川清一郎が巧いのか、わたくしには判断できません。