1954年製作・公開の「女人の館」。北原三枝(NDT➡松竹➡日活)の日活入社第一作目ださうです。春原政久監督作品。白川渥の原作を井手俊郎が脚色しました。音楽は黛敏郎。助監督に古川卓己。
神戸・丹野家の屋敷は、跡取り息子の周一郎(尾棹一浩=野村浩三)が就職の為上京したので、女ばかり六人の館となりました。外交官の夫に先立たれた丹野夫人(東山千栄子)、周一郎の従妹で許婚の万津子(北原三枝)、男言葉を駆使する画家の高代(水の江瀧子)、男性関係が少々だらしない風巻シズ(関千恵子)、大人しく目立たないインテリの南部光江(山本和子)、それに婆や(小峰千代子)の面面。
そんな丹野家に、周一郎の学校長(松本克平)の紹介で、瀬戸内海の小島から来たと云ふ矢田八郎(三國連太郎)なる若者が住み込む事になります。当初は女性だけの館に男なんて怪しからんと、皆から猛反対を受けますが、新たな宿を探すまでの間と云ふ事で、二カ月間の約束で許可を貰つたのです......
原作は読んでゐませんが、戦後の新しい時代を背景に、女性六名が夫々の生き方を模索する姿を描いたものださうです。映画では、いとこ同士の近親婚問題とか、朝鮮人差別意識とかが遠慮なく描かれてゐました。北原三枝と尾棹一浩がいとこ同士ながら許婚の関係で、東山千栄子は是非とも結婚して欲しいと考へてゐます。躊躇ふ北原に対し、劣性遺伝を気にするなら子供を作らない選択肢もあると云ひ放ちます。一方尾棹は東京で同僚の馬淵晴子と良い仲になつてゐます。因みに尾棹一浩は野村浩三の本名であります。大怪獣バラン。
北原三枝の美しさが際立ち、石原裕次郎がファンになるのも頷けるのであります。裕次郎は否定してゐるけれど、「処刑の部屋」を蹴つて「狂った果実」に出たのは、矢張り共演が北原三枝だつたからではないのかと思つてしまふのでした。三國に対する想ひの変化を上手く表現しました。
そして三國連太郎。全体にコメディ演技で難しい役どころと存じますが、流石にこの時期になりますと演技もセリフも安心感があります。田舎者で、女性にはオクテなのかと思はせ、しつかり北原の心を掴む過程が見ものでせう。
設定は面白さうなのに、そして各キャラも立つてゐるのに(住職の千田是也、社長の東野英治郎らは絶品)、どうも画面が平板に感じます。演出力の問題なのでせうか。女性の生き方問題とか主人公たちの恋愛物語などがごつちやに詰め込まれて整理されてゐないやうにも感じました。それでも名優たちの演技が光つてゐますので、それらを愉しむ事にしませう。
尚、東野英治郎の妻役は、各種デエタやポスタアでは「岸輝子」となつてゐますが、実際は「村瀬幸子」であります。