これまた如何にも大蔵新東宝らしいタイトル。監督はこれが第一作となる土屋啓之助。忍者部隊月光。脚本は土屋啓之助と金田光夫、音楽は八木正生。ジャズ風のサウンドが瀟洒です。
若き医師・瀬川(川喜多雄二)は、恋人のルミ子(三原葉子)と将来を誓ひ合つてゐましたが、一年間の海外研修の間に、ルミ子は姿を消してゐました。或る日院長(中村虎彦)の代理で中絶手術を担当した際、患者が何とルミ子でした。術後、ルミ子を問ひ詰める瀬川。ルミ子の話では、瀬川が日本を発つた後、父が死去し多大な借金が遺され、女が出来る事は限られてゐたと。で、現在はクラブのマダムをしてゐました。
ルミ子を許す事が出来ない瀬川でしたが、友人宮原(飯田公夫)の「すべてを許して結婚するんだ」とのアドヷイスを受け、意を決してルミ子のクラブを訪ねます。しかしルミ子は暗黒街のボス・吉野(沖啓二)の情婦となつてをり、もう二度と来るなと冷たく追ひ返します。縋る瀬川を、吉野とその配下たちはボコボコに痛めつけるのでした。因みに沖啓二は後の沖竜次で、更に高須賀忍と改名しましたが、撮影中に不幸な事故で命を落してゐます。
瀬川はルミ子を憎み、女への不信感で満ちてゐました。復讐を誓ひ、周囲の女たちを次から次へと襲ふ強姦魔と化したのでした......
エリート産婦人科医の川喜多雄二が、婚約者の三原葉子に裏切られた事から復讐魔となり、文字通り「肉体の野獣」となる物語です。松竹ではそれなりのスタアだつた川喜多がレイプ魔とは、如何なる思ひで演じたのでせうか。しかもこれは復讐と呼べるのか、よくわかりません。
餌食となるのは、看護婦の三田泰子、友人の妻・瀬戸麗子、アパートの未亡人・若杉嘉津子、更には極秘で堕胎手術を受けに来た歌手の魚住純子らで、その上院長の娘・三条魔子と政略結婚しやうとします。
川喜多の女関係を暴いた匿名の手紙が院長あてに届いて一瞬ピンチになりますが、逆に川喜多は院長の二号(市川美千子)の存在をタネに脅し、まんまと三条魔子との結婚を成立させます。
一方三原は沖啓二とともに逮捕され、釈放された後、川喜多とやり直さうとムシの好い事を考へますが、勿論川喜多は許しません。復讐なつたと高笑ひの川喜多に、まさかの結末が!
結局誰にも感情移入出来ない物語なので、爽快感はございませんね。三田泰子には同情的に観てゐましたが、最後に何と銃を連発! こんなものどうして持つてゐたのか、全く唐突で笑つてしまひます。
ラストで立ち尽くす三人の女たちが印象的。夫々がそれなりに魅力的なんです。三人とも名前が「三〇〇子」なのは偶然でせうか。男優だと「佐野周二」に肖つて、「佐田啓二」「佐原健二」「佐原廣二」らがゐますね。
新人監督、白黒作品、スタア皆無で見るからに低予算映画ですが、まあこれも三原葉子さんの熱演に免じて微苦笑で済ませませう。