井上梅次監督による中期の作品。初期と比べて切れ味が悪くなっているが、後期ほどにはダレていない出来栄え。
初見である。
話はボクシング業界内輪の揉め事である。ヤクザのボスを演じる阿部徹は同監督による日活初期の作品「三つの顔」と同じパターンて感動を呼ぶシーンを作る。以前から井上梅次監督には、ヤクザと堅気の人々との情緒的な繋がりを描いて感動的なシーンにしようと目論むところがある。石原裕次郎の「明日は明日の風が吹く」では堅気の素直な少女に育っている浅丘ルリ子にそっと遠目から幸せを祈るヤクザの父親(大坂志郎)を描いて涙腺を刺激しようとする。「ステラ」男性版である。井上梅次には、この感覚がつきまとう。ヤクザ映画の中には作品として良いものがあるのは認めるが、こういうボーダレスな無神経さをロマンティックに描くのは禁じ手だと私は思う。
前半が甘い。ショットのキレが良くない。後半になって、川口浩と本郷功次郎が対戦相手に絞られていく辺りから話は盛り上がり、もたもた感が消える。
若尾文子が、ボクシングから足を洗えない恋人(川口浩)に愛想を尽かして別れを告げた筈なのに、彼の試合当日には テレビ中継を観ようとして、喫茶店や食堂などをハシゴする。テレビが一家に一台も無かった時代の風俗が見られる。
男から男へとうつろう野添ひとみと、別れてもなお元カレにこだわる若尾文子、二人を対照的に描いて、しかも二人とも元カレと元の鞘に収まってメデタシメデタシとなる。この恋愛話はメインストーリーに関係しない単なる風俗描写に終わっている。前半のダラダラ感を増すのに貢献している。
これに対して、バァのマダム新珠三千代を巡って山村聰と船越英二がライバル関係になる恋愛模様はメインストーリーの展開と巧く噛み合っていてドラマを盛り上げている。当時37歳の船越英二の老け役はちょっとキツかったように思うが...。