NFC三隅特集、錦之助が大映に招かれて主演した司馬遼太郎原作の戦国時代もの「尻啖え孫市」を観るのは初めてでしたが、錦之助が単身で大映に乗り込んだのではなく、相手役と言っていい木下藤吉郎には弟の賀津雄を据え、尾形伸之介や中村時之介、さらに小田部通麿など、東映時代劇時代からの配下を引き連れ出演していたのでした。永田ラッパに出演依頼を打診された錦之助が、配下の役者たちも一緒に出演することを条件に出したといったところなのでしょう。
「尻啖え孫市」が作られた1969年は、既に三船、裕次郎、勝新、錦之助らがいわゆるスタープロを興してお互いの製作映画に出演し合い、五社協定が意味をなさなくなった時代ですから、永田ラッパが錦之助を連れてくることができたわけですが、既に親分のスターたちの順列組合せは終わっているという印象で、錦之助主演に勝新と栗原小巻が脇を固めても、あまり新鮮味を感じなかったというのが、69年当時を思い出したわたくしの実感で、今観ても、顔ぶれについてのワクワク感は覚えません。
一方、お話は、紀州雑賀で3千もの鉄砲隊を擁しながらどこの大名にも属さない雑賀隊を若大将として率いる孫市こと錦之助が、京都で一目惚れした女を探すため信長の町・岐阜城下を訪れるところから映画が始まり、一目惚れと言っても顔を見た訳ではなく、足を見て惚れた足フェチ男という設定が面白いとは思います。
映画は、信長の配下になるよう誘われ、木下藤吉郎とは肝胆相照らす仲となるものの、信長の酷薄さを嫌った孫市が、栗原小巻扮する本願寺宗徒の頼みを受け入れて信長に反旗を翻す話を、大映末期にしてはロケもセットも豪華に撮り、菊島隆三脚本、三隅演出とも手堅く纏めていますが、キャスティングに感じられなかったワクワク感が、映画全体からも感じられないのは、信長役の勝新が、いつになくおとなしい印象を与えるせいかも知れず、もしかしたら勝新も三隅もこの企画に乗っていなかったのではないか、という疑念を覚えました。