「緋牡丹博徒」と並ぶ藤純子の代表シリーズであります。「侠客芸者」はその第一作目。監督は山下耕作、脚本は野上龍雄、音楽は木下忠司。
藤純子の役名は馬賊芸者の「信次」。馬賊芸者とは別段本物の馬賊とは関係なく、まあ伝法肌で豪快な啖呵をきる芸者の俗称ですかな。「馬賊芸者」といふ映画もありますね。京マチ子さん。
明治末期の北九州が舞台。言はずと知れた炭鉱の町。石炭ブームに乗り好景気に沸いてをります。鉱業を営むワルの大須賀(金子信雄)と地元ヤクザの万場(遠藤辰雄)が結託し、阿漕な手を尽くして勢力拡大を目論んでゐます。大須賀は信次(藤純子)を狙つてゐますが、無論信次は靡きません。
そんな大須賀が乗取りを目論むのが花田炭鉱。花田側の清吉(高倉健)は妨害にもめげず孤軍奮闘しますが、大須賀の魔の手はあの手この手で真綿で首を絞めるやうにじわじわと追ひつめて行くのです。遂にはダイナマイトで花田炭鉱を爆破、三名の死者を出す惨事となつてしまひます。清吉は皆の思ひを背に、単身大須賀に殴り込みを掛けるのです......
といふ事で、藤純子はあくまでも堅気ですので、「緋牡丹博徒」みたいに鉄火場で魅せたり、ドスを抜いて殴り込んだりしません。精精ピストルで威嚇する程度であります。だから殴り込みは健さんだけで、池部良的存在もなし。
その分、女の情念みたいなものはよりストレートに表現されてゐます。健さんとの会話が一々いいですね。小松方正らが芸者遊びをした金を払ふ払はないの場面、許婚の土田早苗と会つた後の会話、健さんの殴り込みを察し「止めやしません」と言ひながら「行かないで!」と叫ぶ愁嘆場、いづれも名場面と申せませう。
健さんの殴り込みの最中は、踊る事でしか心を一つに出来ぬ芸者の身。一挙手一投足にその悲しみが表現されて、切ない喃と、男心を擽るのであります。緋牡丹のお竜みたいに胸のすくアクションシーンなどはありませんが、藤純子の魅力はぐつと抽出されてゐると存じます。