この映画は洒落(シャレ)たセンスの可笑しさがいっぱい詰まっていた
ネタバレ
緑魔子が、これまで私が見てきた彼女の映画で一番魅力を発揮していたと思います。金庫破りの名人で英語が堪能で、短髪で(?)、頭は切れるが小悪党のヒモが居る。他社(東映)からわざわざ借りてきての出演だが、このキャスティングは誰が考えついたのだろう。プロデューサーの貝山知弘かな?彼女の起用を考えただけでも良い仕事をしていると言えます。
砂塚秀夫、高島忠夫がコメディアンの味がうまく引き出されているが、何よりも特筆すべきはベテラン森雅之の喜劇的センスがここまで引き出されるとは意外中の意外である。谷口千吉監督作品で私がこれまで観てきた中でベストワンである。
最初の競艇場のシーンから快調に飛ばしていく。最初からこの調子で飛ばせば息切れしないかと心配になるくらいだ。息切れするどころか、後半になってギアを一段上げた。悪徳化学薬品工場に不発弾処理と称して潜入した泥棒グループが、爆弾処理をしているふりをしていると、その奥を、ストーリィと全然関係なく、子犬が一匹、構内をチョロチョロと右端から左端に横断して画面から切れていく。こんなのは伏線にもなっていない。ドラマに絡んでいない無駄な映像を、スタッフが手間暇かけて、いかにも間の抜けた感じを醸し出していて可笑しい。子犬はロングショットで撮っているから、これ見よがしじゃないようにさりげなく撮っているふりして、結構目立っているのが却って可笑しいのだ。
窃盗団が悪徳化学薬品工場の社長(東野英治郎)を拉致して閉じ込めた部屋の高窓から、沖縄民謡が聞こえてきたり米軍基地の爆音や訓練の様子が聞こえてきて、隣の部屋からもの凄い拷問の悲鳴が聞こえて来たりする。どうなることかと社長は恐怖に怯えていると、高窓からボールが飛び込んできて、野球帽を被った男の子が窓から顔を出して「おっちゃん、ボール取ってんか」と言う。こういう仕掛けはすぐ読めるほどベタなのだが、ベタ過ぎてしらけるのもバカらしくて逆に笑ってしまう。谷口千吉って、こういう洒落(しゃれ)た笑いの映画も撮るんか、と改めて一目を置きました。これまで「暁の脱走」「ジャコ萬と鉄」「銀嶺の果て」「愛と憎しみの果て」など、黒澤明の肌合いに近い画調をイメージしていたので、思いがけない側面を見せられてビックリです。
川本三郎氏推薦の日本映画専門チャンネル「蔵出し名画座」の一本でした。