東映版「柳生武芸帳」シリーズの第七弾。
本作の舞台は三代将軍家光の時代であります。33年前に、豊臣の残党といふことで公卿らが暗殺された事件がまづ語られます。東福門院(風見章子)による語りはなよなよしてゐて、聞き取りにくいのでした。風見章子さんは品があつて好きな女優さんなのですが。
その東福門院の前で佐々木左門(佐々木孝丸)が、その事件の首謀者は自分であると告げ自害します。東福門院は飛鳥井大納言時光(松方弘樹)に、江戸へ出て真相を探つて欲しい旨の依頼をしました。家康公が暗殺を指示したのなら、それが明るみに出ると幕府に大きなダメーヂを与へられます。
暗殺者四名の名は柳生武芸帳に記載されてゐて、そのうち三名は既に物故者であると。残る一名が「寒夜に霜を聞く太刀」を駆使する「誰か」であるといふ。
時光は武芸帳を入手せんと、山田浮月斎(山形勲)の配下に探らせますが柳生十兵衛(近衛十四郎)に阻まれます。偶然武芸帳を発見した十兵衛と柳生兵庫(和崎俊哉)ですが、それを時光に奪はれてしまひます。時光を追ふ十兵衛でしたが、そこへ浮月斎が現れ十兵衛の前に立ちはだかり、時光を見失ふのであります。
時光は早速江戸の将軍家光(島田兵庫)を訪ね武芸帳を見せます。そして家光から、今後は朝廷(公卿)の地位を安泰せしからめ、これを優遇するとの言質を得るのでした。してやつたりの時光。
浮月斎は御前試合を利用して、真剣にて十兵衛を斃し柳生家に代り指南番の地位を狙ひます。しかし、十兵衛の「無刀取り」の前に敗れ、武芸帳は家光の手に委ねられるのでした。
サテ今回は内出好吉が二度目の登板、馬上の対決などにキレを見せます。脚本は引き続き高田宏冶、過去作に捉はれぬ設定を作り、脱マンネリに成功してゐます。何より武芸帳の内容が、幕府転覆を狙ふメムバアの連判状から、暗殺四人組の名が記された秘密文書に変つてゐます。幕府VS朝廷の対立を一層際立たせてをります。
なほ、佐々木左門の娘役に新人の藤純子が配されてゐます。一葉浮水の構への使ひ手として、きりりとした演技を見せます。映画出演はまだ二作目くらゐで、当時は17歳と存じます。クレジットの順列も山形勲と同格扱ひで、既に将来が嘱望されてゐたのですねえ。