黒シリーズ第四弾(kinenoteでは七作目とありますが、四作目が正しい)、「黒の死球」であります。「死球」を「デッドボール」と読ませる文献もありますが、ここはそのまま「しきゅう」で良いやうです。ポスタアにも「しきゅう」と振り仮名がふつてあります。
監督は瑞穂春海。シリーズでは本作のみの参加。原作は高原弘吉「あるスカウトの死」、脚色は田口耕三、音楽はお馴染み池野成、印象的なメインテーマが繰り返し流れます。一寸五月蝿いけど。
プロ球団「ルビース」のスカウト柏木(宇津井健)は、長野まで出向き、高校左腕ナムバアワンの菊川投手(倉石功)と契約に漕ぎつけます。ところがそのタイミングで、「イーグルス」の先輩スカウト・浜田(河野秋武)の自殺の報が届きます。菊川獲得に失敗した事が原因と警察は判断しましたが、柏木には信じられません。
浜田はかつて選手としての柏木をスカウトした事があり、浜田の娘しず枝(藤由紀子)は柏木と付き合つてゐます。そのしず枝の元へ、骨折した左腕を撮影したレントゲン写真が送られます。菊川のものかと思はれましたが、彼の左腕は異常なし。
浜田の死の真相を探るべく行動を開始した柏木。浜田が高級時計を贈つたユカリ(近藤美恵子)なる女性の存在を知り、彼女にコンタクトを取らんとしますが彼女は失踪してしまふ。柏木は独自の捜査により、実はユカリの本名は竹村伸子で、彼女の弟・健太郎(風間圭二郎)が骨折の人物と判明します。そして伸子が惹かれてゆく浜田に、嫉妬する男がゐたのです......
プロ球界のスカウトが主人公なので、今回はこの世界の裏側を暴き魑魅魍魎が蠢く物語か、と早合点しました。実際はさういふ大きな社会的な問題を抉る話ではなく、愛する女性が別の中年男に心を持つて行かれたので、嫉妬に狂つた男の犯行物語でした。黒シリーズも随分矮小化されたものです。
なので本作は純粋に「犯人は誰か?」式のミステリイとして愉しめば良いと存じます。それにしても主役の宇津井健、いつもながらの熱血ぶりなんですが、スカウトマンのくせに完全に探偵やブンヤ並みの捜査力を見せつけます。特にレントゲン写真の主を探すにあたり、県の体育課で書類の山と格闘するさまはまるで「警視庁物語」シリーズですな。
そして河野秋武と近藤美恵子との関係を辿る過程で、倉石功→菅井一郎→神山繁→近藤美恵子と芋蔓式に人間関係が解けてゆくさまは、一寸都合は良すぎるが見せ方は上手いと存じます。
ネタバレですが、結局黒いのは神山繁個人であつたと云ふ訳でした。善人面で肺を病んでゐる神山が犯人でしたが、警察に捕まるシーンも無く、病魔に侵されそのまゝ終つてしまふ哀しい役。
ヒロイン藤由紀子は安定の美しさ。宇津井とは恋仲に見えましたが、スカウトといふ職業がネックになつて、当初は結婚は諦めたやうです。その意思を態々封書にして宇津井に伝へますが、宇津井は「中身は見なくても分かつてゐる」と、開封しません。そんな二人が一件落着すると、一転結婚への話が成立し、宇津井は「もう必要ないな」と封書を破り捨てるのでした。一体藤の葛藤は何だつたのだ?と思ひますが、最後は爽やかな雰囲気で、末良ければ総て良し、と申せませう。