貧しいながらも悩みつつ前向きに生きようとする青春群像が清々しく描かれている
あり子(和泉雅子)は中学三年生。割と勉強はよくできる方だ。特に英語が得意で,アメリカ人の男の子と文通をしているし,将来はスチュワーデスになろうと思っている。ところが,大黒柱である父親が酔っ払って車に引かれて死んでしまった。定時制に通いながら工場で働いている兄の順(山内賢)は,父親がやっていた東京への行商で稼がなければならなくなったし,あり子も高校へ行けるような状況ではなくなった。致し方なく,あり子はデパートの就職試験を受けるが,片親だという理由で落とされてしまう。英語ができるから,ジャズでも歌って芸能界入りも考えてはみたが,当然ながら全く相手にしてもらえない。高校にも行けず,就職もできないことから,彼女の生活は荒れてくる。そして,とうとう兄の順と喧嘩をして,家を飛び出してしまった。日本を出ようと船にこっそりと乗り込む彼女だったが,その船は国内航路で,神戸で船員に見つかってしまう。順が彼女の身柄を神戸へ貰い受けに来てくれて,彼女は素直にあやまるのだった。戻って来た日はちょうど定時制高校の入試の日。あり子を順が入試へと送って行く後ろ姿で映画は終わる。
あり子の物語と並行して描かれるのが順が通っている定時制高校であり,いくつかのエピソードが描かれる。その一つが同級生の馬場里子(松原智恵子)のエピソードである。彼女は有力者の家で住み込みで働いていたが,そこを出て独立したいと考え,とうとうそこを飛び出してしまう。そのため,定時制高校は辞めざるを得なくなるが,同級生たちが結束して,最後には復学にこぎつける。
定時制高校を中心に,貧しいながらも悩みつつ前向きに生きようとする青春群像が清々しく描かれている。日活映画の一つの十八番と言っていいだろう。舞台となっているのは千葉の浦安近辺。当時は漁業が盛んで,海苔で生計を立てている人も多いようであるし,順たちが行商で東京へ持っていくのが浦安の魚市場で買ってきた魚である。東西線はまだなく,京成バスが走っていて,「猫実」の文字が見える。本八幡駅〜猫実のバスであるらしい。
ちなみに,映画データのキャストに武智豊子の名前があるが,彼女は出ておらず,この役は千石規子が演じているようである。牛乳瓶の底のような厚いメガネをかけて,南無妙法蓮華経を唱え続ける姿で笑わせてくれる。