監督ダグラス・サーク、撮影ラッセル・メティの鮮やかなメロドラマの色彩感覚を、まさか豊田四郎と岡崎宏三コンビもやっていたとは思わなかった。ただし、この明暗のハッキリしたキツい色彩は、50年代のアメリカ中流階級の見てくれを描くの絶品の演出だったが、山本富士子と新珠三千代の森繁久彌をめぐる色恋話には適していないように思う。
冒頭の赤の印象が強いが、山本富士子はそんな赤く燃えるような熱をもってはいない。それは新珠三千代のトルコ石の青さにしても同様で、そもそもドラマ性が希薄なのだ。どっちつかずの森繁久彌が女優ふたりの奪い合う対象でしかなく、仲代達矢、長門裕之との関係もドラマにまで昇華しない。それがあの正反対の道をゆく車越しの握手である。結局、山本富士子と森繁久彌は元の鞘に戻り、新珠三千代は仲代達矢とどうなるのか。頭では分かるが感情的にピンとこない。思えば色彩の感覚から、私が勝手にダグラス・サーク的なメロドラマを連想しつつ映画を観ていたのかもしれない。豊田四郎もこんな映画を撮っていたのか。