初見である。
伴淳三郎は公開当時この映画でどう評価されていたのだろう。彼は特別出演で花を添えるだけかと思ったら、かぁちゃん(新珠三千代)の元夫の重要な役どころを演じて、なかなかの好演だった。浅草で女(日高澄子)と所帯を持ってチンドン屋で稼いでいる生活に疲れた男を演じて、いつものスラップスティック風とは違って自然体の味わい深さを見せていた。
もともと五所平之助監督は「蛍火」で伴淳三郎をシリアスドラマに抜擢した実績があり、それ以来の登用である。
素朴な青年教師を演じた津川雅彦も良い。当時の彼はメリハリのある華やかさがついて回って、大島渚や吉田喜重監督のヌーベルバーグで脱皮を試みていたが、何だか背伸びをしているような力みが感じられた。五所平之助監督は伴淳三郎の起用同様に、いとも易々と固定した津川のイメージの殻を破っていて、落ち着いた朴訥な青年を演じさせて新鮮である。
子どもが実父(伴淳三郎)から継父(田村高廣)へ愛着が移行していくプロセスが丁寧に描かれている。だから、ラストで、会社まで走って行く継父の後を追って子どもが自転車に母親を乗せて追い掛けるロングショットのシーンがさり気ない描写に見えるが感動を呼ぶ。
芥川也寸志の抑制の効いた音楽が秀逸で冴える。野村芳太郎作品での清張もののメリハリのある華麗なメロディとは違って、この映画のように日常のさざなみのような映像にフィットした音作りが素晴らしい。ラストシーンには微笑ましい幸せが滲み出てくるような余韻を残した。