後味が不快で嫌な気持ちになる。
《切腹》《上意討ち》といった大嫌いな時代劇よりは軽い語り口なのだが楽しくない。
原田甲斐の長谷川一夫がいかにも過ぎて見ていてウンザリする。長谷川一夫感を出し過ぎ。冒頭の重臣たちの評定シークエンスで原田甲斐は一番後ろに座っているのだが、顔を上げると圧がすごいのだ。アイメイクもやり過ぎだし、当時54歳にして貫禄充分で他の人々を圧倒しているし、そういう撮り方はドラマトゥルギー上おかしいでしょ?伊達安芸を演じた加藤嘉の方がずっと納得がいく。
中盤、妻を不義密通のかどで離縁した後、ザンバラ髪で馬に乗り山中を疾駆する。山の中の泉で山娘が水浴し、そこに武士の家に生まれて自由のない生活を嘆く長谷川のナレーションが被さる。このシークエンスの訳のわからなさも相当なものだ。
まあ当時の映画興行世界では長谷川一夫をキャスティングした時点でこういう作り方にならざるを得なかったんでしょうね。長谷川一夫の見せ場だから。
高田美和のデビュー作だがオープニングのクレジットで名前のわきに(新スタア)とついてるが、会社が「スタア」と決めてたんですね。デビュー作なのに。
結局、徳川封建体制下の武家社会は何十万石の大名であっても、ヒエラルキー頂点の将軍には逆らえず、武士は徳川を、それぞれの藩を、自らの家を守らねばならない=自由に自分の好きなようには生きられない。終盤、武士でありながら江戸から仙台に流れてきた宮本信八が三味線弾きになって自由の喜びを語る。ぬるい武家社会批判だし、あまりひびかない。
林与一演ずる伊達綱宗がアホ殿そのもので共感をよばないのもつまらなさの一因。
◎クライマックスは原田甲斐、伊達安芸と黒幕、酒井雅楽頭
(柳永二郎、この人こういう役はすごくハマる!)との評定シークエンス。ここでの長谷川一夫は、ここだけは素晴らしい。さすがの芝居。久世大和守(宇津井健もうけ役!)もいい。
この後の数十人による大殺陣シーンはあり得ない設定でシラける。
「忠臣蔵」はこれに比べるとやっぱりよく出来てる。「伽羅先代萩」見たことないけどやっぱりこんな感じなのかな?