シネマヴェーラ渋谷の東映女優特集で初めて観た「山麓」は、三田佳子と千葉真一がビリングトップで恋人同士に扮していますが、三田の両親が山田五十鈴と笠智衆、三田の姉が淡島千景、扇千景、岩崎加根子、その連れ合いが西村晃、丹波哲郎、南廣、淡島の元恋人に木村功、三田に求婚する会計士に渡辺文雄、家出した淡島千景が頼る山田五十鈴の姉に沢村貞子など、オールスターの家庭劇でした。
娘たちを金づるとしか思わず、その亭主たちから金をせびっては、自らの美容と着物に金を注ぎ込む母親・山田五十鈴。事業が失敗して以降は妻や娘たちに頭が上がらず、ひたすら情けない姿を晒しつつ、ついには自殺を決意して雪山に入ってしまう父・笠智衆。実は好き合っていた男・木村功が居ながら、母親の薦めるままに実業家・西村晃の許に嫁いだ結果、夫との生活に耐えかねて、母の妹で料亭女将の沢村貞子を頼って家出する長女・淡島千景。四姉妹の中で一番おっとりした性格で、親の薦めるまま丹波哲郎の許に嫁ぎながら、姉・淡島千景のように不満を露わにすることなく、善良な主婦であり続ける次女・扇千景。姉・淡島千景の不幸な結婚を目の当たりにしたせいか、がめつく利己的な母親・山田五十鈴に反抗して、貧しく清廉な鉄道員・南廣との結婚を選んで家を飛び出した三女・岩崎加根子。そして、そんな一家の面々を見ながら成長し、長女・淡島や三女・岩崎ほど母に対した敵意を持つわけではなく、かと言って次女・扇千景ほど母に従順になれるわけでもない四女・三田佳子が、結局は好きな相手である千葉真一との結婚を選び取るというお話。
「山麓」は、丹羽文雄原作を松山善三が脚色した、オールスターのホームドラマであると同時に、メロドラマでもあるという題材で、東映というより松竹大船や東宝のほうが似合うお話ではあり、瀬川昌治という監督がそもそも撮影所のカラーを出さずに撮る人なので、東映らしさを感じない映画に仕上がっていました。