ラピュタ阿佐ヶ谷の東映文芸映画特集で初めて観た「草の実」は、冒頭の空撮で小豆島を捉えてタイトルクレジットが出たあと、隣り合った2軒の家をスコープ画面の右端から左端まで捉えたロングショットが映り、上手端の扉から出てきた佐久間良子が、画面中央近くの井戸の脇にある水道のところまで来る様子を描き、そこでカットが変わって、佐久間が画面下手の家から出てきた杉村春子と会話を交わす展開となるのですが、なぜ冒頭で画面左右いっぱいを使って二つの家を同一ショットに収めたのかということが、ラスト、画面下手の端にある家の下が急な角度の石垣であることを示す場面によって、観客に諒解されることになります。
瀬戸内海の小豆島。同じ“大西”という苗字を持ち、隣り合って住む“母屋=おもや”と“新家=しんや”という直接は血が繋がらない二つの家で、“新家”の娘である佐久間良子は“母屋”の息子・水木襄と将来を誓い合う仲でありながら、水木の母・杉村春子は若い二人が付き合うことすら徹底的に嫌い、水木の父・宮口精二は多くを語らずに口をつぐむばかりで、佐久間の両親(醤油会社の社員として本土の本社に転勤してゆく父・神田隆と一緒についてゆく母・丹阿弥谷津子)は特に反対しないものの、祖母の浪花千栄子は“母屋” への反発を露わにし、佐久間も水木もお互いの恋心を素直に出すことができない中、二つの家に横たわる過去の事件が次第に浮かび上がってくるというドラマ。
木下惠介の妹である楠田芳子の脚本が、壺井栄原作から地方色豊かなドラマを組み立て、村山新治の作劇は、今回もまたロケ撮影による地元の土地の匂いを映画の随所で立ち昇らせつつ、セット撮影部分を巧みに組み合わせながら、役者陣たちから見事なアンサンブルを引き出しています。巧いです。