忠太郎(中村錦之助)は強いは強いのだが,そこそこの頻度でめそめそしているのが気がかりにもなる.そして終盤,彼は,瞼の母に「忠太郎」と,霧に煙る月夜の晩に,叫ばれ声をかけられるのだが,木の影から出てこられず,いじらしさを見せる.しかし,そんな彼の女々しさと柔らかい精神にこそ,作品の魅力がかけられている.
かたぎになるつもりでいるらしい.それでもやくざな振る舞いから抜けきれずにいる.神社の境内で刀を振り回して暴れている.共闘しているのは,兄貴分の忠太郎と弟分の半次郎(松方弘樹)である.江戸へと出て,忠太郎は母を求めようとしている.金町では半次を訪ねてくる十人ほどの輩たちがいる.半次はやたらと汗をかいている 妹のおぬい(中原ひとみ)と母のおむら(夏川静江) がいて,半次を隠してしまう.喧嘩に行こうとしていると,祭囃子が聞こえ,さらには子どもたちのわらべうたも聞こえてくる.
林の中で飯岡の助五郎(瀬川路三郎)らとの戦闘が始まっている.その戦いの始末を終えると,忠太郎は弟の母でしかないおむらに抱かれるようにして,筆を手にとってもらっている.すると彼は母の面影と肉感に絆されてしまい,遂には泣き出す.
雪が積もっている江戸に舞台は映されている.路上で三味線を手にしてかき鳴らす盲目の老婆(浪花千栄子)がいる.忠太郎は,彼女をも母ではないかと嫌疑をかけている.湯島天神で富籤が催されて,人々が群れ,富籤が少年に引かれようとしている.雨が降っている.賭場に出入りをしている要助(山形勲)と金さん(原健策) が忠太郎に対して企んでいる.
船着場のあたりに営まれている「水熊」の女将のおはま(木暮実千代)が見えてくる.その店先に,コモを持った夜鷹のような怪しい女のおとら(沢村貞子)が入ってくる.が,金さんに追い出され引っ叩かれるなどいじめられている.そこへ忠太郎が助けに入り,やはり母ではないかと誰何する.
江州の番場の宿場,置長屋での母と子の別れが今こそ語られようとしている.おはまは忠太郎という子は死んだと言う.「じゃあ自分は何だ」と忠太は亡霊のようなことを言い,存在が怪しくなる.ウチの中に波風を立てていることをおはまは嫌っている.
吊り橋が見える.その川辺でまたも喧嘩や殺し合いが繰り広げられているかと思えば,忠太郎は,また息を潜め,霊的な存在にでもなろうと言うのか,内面に閉じこもろうとしている.