戦後版の旗本退屈男シリーズも、これで遂に20作目であります。よくこれだけ製作したものです。題して「謎の珊瑚屋敷」。監督は松田定次でも佐々木康でもなく、倒産した新東宝からやつて来た中川信夫。脚本は引き続き結束信二であります。
退屈のお殿様こと早乙女主水之介(市川右太衛門)の取り巻きの一人、鉄砲玉の勘吉(品川隆二)が「天下の一大事だ!」と一心太助よろしく駆け込んできました。馴染みのお染(小畑絹子)が飲み屋を開店したといふ。早速店に顔を見せる主水之介。お染の新たな門出を祝つたのですが......
何とそのお染が廻船問屋の平戸屋主人と心中を図つたのです。退屈の虫が疼いた主水之介、これには何か裏があると睨み、調査を開始します。今回も「チーム退屈男」を総動員。勘吉のほか、喜内(渡辺篤)、京弥(沢村訥升)、妹・菊路(北条喜久)、お良(水谷良重)、そして平戸屋の娘・おしま(北沢典子)も加はり、長屋の面面も協力。
平戸屋では十文字屋銅右衛門(石黒達也)と西海屋市兵衛(沢村宗之助)の荷物を秘かに移動し、更に番頭の清兵衛(本郷秀雄)が一枚噛んでゐるやうです。これらが今回のワルたちらしい。しかも、死んだ平戸屋にも何か謎があるやうで、娘のおしまはそれを知つて悩んでゐます。
ワルどもは何かと嗅ぎ回る主水之介が邪魔であります。刺客として檀造酒蔵(東千代之介)なる浪人者を雇ひますが......
シリーズも末期となり、その顔ぶれも変化してきました。特に女優陣はかつての東映お馴染みの人たち(喜多川千鶴・花柳小菊・長谷川裕見子・大川恵子・丘さとみ・桜町弘子ら)は一切出なくて寂しい。京弥の恋人にして主水之介の妹・菊路は北条喜久。後に霊能者・北條希功子として活動する人ですね。漫画家・つのだじろうによると、物凄い霊能パワーを持つらしい。伝法枠は水谷良重さんですが、わたくしこの人の良さがあまり分かりません。寧ろお染役の小畑絹子の方が好きなんですけどね。新東宝随一の美女と呼ばれましたが、出身映画会社によつて運不運があるやうです。
久しぶりの京弥さまは沢村訥升。北大路欣也に比して華はないかも知れませんが、これくらゐの方が良い。勘吉の品川隆二が好いですな。後年の焼津の半次を思はせるイキの良さであります。一方東千代之介は何をやりたいのかイマイチはつきりしませんでした。てつきり最後は主水之介と一騎打ちがあるかと期待したのですが。
ワルどもも進藤英太郎や山形勲や薄田研二や原健策なんかが出ない。石黒達也や沢村宗之助では、大映京都レヴェルですな。
演出に関しても、新東宝で怖い傑作映画を撮つた中川信夫としては、今一つ物足りないのであります。それでも退屈の旦那と水谷良重が二人で去るエンディングは幻想的で美しいと感じましたが。
愈々次作は最終作「謎の竜神岬」であります。名残惜しい。