ラピュタ阿佐ヶ谷の東映東撮特集で初めて観た「南太平洋波高し」は、渡辺天皇にしては細部の手抜きを一切感じない、むしろ全場面・全カットに力の入り具合が感じられる、渾身の戦争映画でした。
特攻隊として出撃しながら、途中でエンジンの不調を感じたら、平気で基地に戻ることを繰り返し、敵突撃の前に海に墜落した戦友のことを“犬死にだ”と断言する学徒出陣の梅宮と、“それは犬死にではなく、名誉の戦死だ”と抗弁する海軍士官学校出の千葉ちゃん。……戦場における死の在り方について、学徒出陣兵と海軍士官学校出の対立が、観る者にリアルに迫る一方、そんな二人の対立を止揚する立場として二人を見詰める上官鶴田。様々な考え方、哲学を抱えながらも、敵に立ち向かうという一点では結束する海軍の兵士たちが、丁寧に描き分けられ、説得力を持ちました。
映画には、梅宮、千葉ちゃん、鶴田のほかにも、人間魚雷回天の乗組員として死に直面しつつ、なかなか突撃の機会が得られないという、梅宮の学徒出陣仲間・水木襄の悩みも描かれる上、水木ら回天乗組員たちに立派な突撃機会を与えてやりたいと努力する艦長・高倉健らの存在が、映画を厚みのあるものにしています。また、水木の恋人で水木の出撃前に結ばれて妻となる水上竜子や、梅宮の出撃を見送る芸者・三田佳子ら、銃後の描写も的確で、早撮りの渡辺天皇としては例外的と思えるほど、細部まで丁寧に描き込まれた戦争映画でした。