時代のトレンドを取り入れようとする姿勢は評価したいがまとまりが良くない
歌舞伎の「播州皿屋敷」「魚屋宗五郎」と落語の「芝浜」を一つの物語にまとめた作品。このアイデアは良い。
成澤昌茂脚本によるマキノ雅弘監督作品はこれが唯一の作品かと思う。あまり呼吸が合っていない。
制作年度の1961年は丁度ヌーベルバーグが日本にも押し寄せていた頃で、大島渚の「日本の夜と霧」や「儀式」に見られる長回しのカメラワークやリアリズムが、この映画に垣間見える。その流れ(trend)とマキノ監督の映像感覚がチグハグになって、まとまりが悪い出来栄えになった。錦之助の兄小川貴也にしてみれば、様式美を目指した青山播磨とリアリズムを目指した魚屋の勝とが、錦之助の芸域の広さとして見せたかった企画だったのかもしれないが、作品としてまとまりが良くない。
「芝浜」の部分ではリアリズムを目指そうとする錦之助に、歌舞伎や落語本来の江戸っ子の鯔背(いなせ)や粋(いき)な味わいが窮屈そうに見える。錦之助と千秋実、桂小金治が長屋で鍋をつつく場面で、千秋実が剣呑な気配を瞬間的に見せる辺りは、心理的な計算が行き届いているように見えて巧いと言うより、醒めた酔っ払いになっている。リアリズムのつもりが俗流自然主義に陥っている。
坂本武、桂小金治は松竹大船映画で培われた庶民感覚が長屋住人の味わいに生かされている。マキノ監督作品には初めての出演だったのではないか。