マキノ雅弘監督による「若き日の次郎長」三部作の真ん中、「東海一の若親分」。相変らず錦ちやんが弾けてゐます。脚本はマキノ監督自身と小野竜之助であります。
次郎長(中村錦之助)は遂にお蝶(丘さとみ)と夫婦になり、一家の追分の三五郎(安井昌二)、法印大五郎(田中春男)、桶屋の鬼吉(加賀邦男)らも祝福します。そんな幸せ絶頂と思はれた時に、叔父の和田島の太左衛門(片岡半蔵)のところに、貸元赤鬼金平(中村時之介)・銀次(尾形伸之介)兄弟が縄張の要求をして来たのです。次郎長が収めに行きますが、駆け出し扱ひされて怒り心頭、又もや大暴れ。この騒ぎで知り合つたのが、山本政五郎こと大政(水島道太郎)で、一家に加はる事に。まだ小政はゐないやうですが、既に大政と呼ばれてゐます。
金平銀次のバックにゐる大物が、島田にも触手を伸ばしてゐた、甲州のドモ安こと竹居安五郎(平幹二朗)。人身売買で娘たちを集め、女郎屋に斡旋する闇商売で儲けてゐます。このドモ安の女・おしの(千原しのぶ)がかつて大政の妻だといふのです......
これも小気味好いテムポで描く、錦ちやん次郎長の痛快版です。今回の大ワルは、竹居安五郎、通称「ドモ安」。演じるのは、前回次郎長一家の増川の仙右衛門を演じた平幹二朗であります。あれあれ。このドモ安は大勢の娘を人身売買する悪い奴なんですが、平の演技が戯画化されて、吃るのもわざとらしく演じて、どこか憎めない感じを醸し出してゐます。
田中春男・加賀邦男らは続投ですが、追分の三五郎は東千代之介から安井昌二へ交代。そして大政に水島道太郎、森の石松にジェリー藤尾、関東の綱五郎に渥美清(いいね!)と新メムバアが加入します。藤尾は歌も披露。
女優陣は、丘さとみが二役に挑むほか、千原しのぶがファムファタール的な役柄で登場。常に厳しい表情なのが辛いのです。一転して陽気な北沢典子は大政と結ばれさうです。デビュ間もない歌手の仲宗根美樹さんが、石松のジェリー藤尾とコンビで登場、まことにチャアミングで、演技も意外とイケます。
特段にマキノらしさが発揮された訳ではありませんが、安心して愉しめる痛快娯楽作品だと存じます。安定の一作と申せませう。