大友柳太朗版・丹下左膳のシリーズも第四弾、「濡れ燕一刀流」であります。監督は第一作以来担当してゐる松田定次。林不忘の原作を松村昌治と直居欽哉が脚本化してゐます。
サテ、日光東照宮御修復の担当が伊賀国・柳生対馬守(山形勲)に拝命されます。莫大な費用が掛かる為、本来、財政的に豊かな藩が指名されるのですが、意外にも清貧で知られる対馬守になつたのは、莫大な資産の秘密が隠される「こけ猿の壺」を所有してゐたからでした。
一方トンガリ長屋の丹下左膳(大友柳太朗)は、盲目の娘・お光(桜町弘子)と知り合ひ、彼女の目を治すには百両かかる手術が必要と知ります。そこへ対馬守の弟・源三郎(大川橋蔵)を斬れば百両の仕事を請け負ふ左膳。これを依頼したのは、源三郎の許婚で司馬道場の娘・萩乃(丘さとみ)に横恋慕する、師範代の峰丹波(戸上城太郎)。
左膳は源三郎と対峙しますが、峰丹波の卑怯なやり口に態度を変へ「表返」るのでした......
オヤ又もや「こけ猿の壺」かと思つたら、その後の展開は違つてゐました。柳永二郎の淡路守と信濃守の平幹二朗がワルで、珍しく柳生対馬守が山形勲で、お人よしの善人役です。戦前の左膳役者・大河内傳次郎が蒲生泰軒を演じるのは同じですが、大岡越前守は黒川弥太郎に変更になつてゐます。
トンガリ長屋のメムバアではお藤役に長谷川裕見子が復帰、与吉は同じく多々良純ですが、今回ワルの手先となつてゐます。最後には味方に戻りますが、今回の罪は重いと申せませう。
チョビ安は松島トモ子が成長してしまつたので、本来の男の子(目方誠)に変りました。これら善意の面面が、桜町の目を治す事に懸命になるのです。
その桜町弘子の出自の秘密を巡るエピソオドが、すんでの所でワル共の野望を砕く切掛けとなりました。大川橋蔵は今回も大活躍。ダブル主演と申せませう。クライマックスの大立回りはファンも満足の大活劇。
このホームドラマ風の、ほのぼのした勧善懲悪テイストは、本作まで。次作「乾雲坤竜の巻」ではガラリと作風が変るのでした。