山中みどり(吉永小百合)は玩具工場の女工である。彼女の母親(奈良岡朋子)はみどりの姉(南寿美子)と「ほまれ」という飲み屋をやっているのだが,酔っぱらい相手の商売を手伝うのを嫌い,外に働きに出ている。いずれは金を貯めて,大学に通いたいと考えている。
ある日,みどりが映画を観に行くと,切符売り場で前に並んでいた学生風の男が金がないと言い出して困っていた。彼女がその男の分まで切符を買ってあげたことがきっかけで,翌日食事に誘われ,親しくなった。彼は高木誠(川地民夫)というのだが,実は金持ちの大学生である。金がないと言えば女が引っ掛かるという友人の軽口をそのまま実行しただけだったのだが,みどりには一目惚れしてしまったのである。一方,みどりは自分が女子大生だと嘘を吐いている。「どこの女子大ですか?」「目白です」「じゃあ,日本女子大ですか」なんていう会話がある。つい吐いてしまった嘘だったのだが,あまり気分のいいものではない。誘われたドライブに女工仲間(松尾嘉代たち)を連れて行き,彼女たちも女子大生だと言うような嘘まで重ねていく。
しかし,そのうちに,みどりは,その嘘に耐え切れなくなり,とうとうデートもすっぽかしてしまった。振られたのかな?と思う誠。ただ,どうやら誠の方はみどりの嘘には感づいていたようである。さらに,誠の友人が自分の親が経営する玩具問屋へ玩具を納入に来る彼女を見てしまう。やはり,彼女は女子大生じゃなかったのか!どうしてもあきらめられない誠はみどりの家の住所を友人に調べてもらい,会いに行く。しかし,彼女はなかなか帰って来ない。致し方なく帰ろうとする誠に,みどりの弟(亀谷雅敬)が姉のことをよろしくお願いしますという言葉をかけに追いかけて来た。うなづく誠。
翌日は誠が大阪へ向かう日であった。いつものデートの場所でと伝言されたみどりが日比谷公園に向かうと,誠の姿がそこにあった。日比谷公園から駅方面にかけていく二人の姿で映画は終わる。
いかにも日活的な63分の小品であるが,当時(1961年)の東京が実に丁寧に描かれている。
みどりが勤めているのが西新井橋停留所前の玩具工場で,川向こうにはお化け煙突で有名な千住火力発電所の姿がある。一方,飲み屋をやっているみどりの家は汐留川に面している。おそらく新橋付近。みどりが西新井橋から帰宅するのに乗り込むのが東武バスで,行先表示には新橋駅の文字がある。何と,当時は新橋からバス一本だったのである。汐留川はその後埋め立てられ,高速道路となるのだが,「ほまれ」のおかみである奈良岡朋子たちが,立ち退き話をしている。「立ち退くと言ってもどこへ行けばいいんだろう?東京オリンピックなんて来なければいいのに!」東京を一気に変貌させたのが東京オリンピックであったという事実はここでも明らかである。
玩具工場で働く若者は皆楽しそうである。工場が引けると,男の工員は女工に声をかけながら,ストリップへと繰り出す。当時の大学生の行動もよくわかる。車を持っている金持ちの大学生はバーやキャバレーに通っていたのだろう。誠たちがドライブに行く先は相模湖。当然中央高速などない時代だから,山越えのつづら折れを登って行く。相模湖ではモーターボートに乗り,持ってきた弁当を食べる。
デートの場所は日比谷公園。噴水周りは今とあまり変わらない。
玩具工場から吉永小百合はミゼットで蔵前の玩具問屋に玩具を配達する。ミゼットの軽快な走りが存分に観られるのも楽しい。
何とも貴重な記録がごく普通のプログラムピクチュアにもたくさん残っているのだ。