1960年の「東海道非常警戒」、山田達雄監督作品であります。この監督、アラカンさんとか時代劇の印象が強い。
宇津井健さんの役柄は山内刑事。鉄板です。山内の現れるところに事件ありと勝手に格言を作り、週刊誌記者の京子(小畑絹子)は山内に何かと付き纏ひます。しかし特段の事件は起きず空振りかとがつかりしてゐたら、東山産業の社長令嬢・美智子(中西杏子)の誘拐事件にぶち当たるのです。
東山社長(中村虎彦)は何かと敵が多い。警察は捜査の協力を依頼しますが、犯人の報復を恐れ拒否します。東山家の女中・千代(大原永子)が情報提供をしてくれるといふので山内くんが呼び出したところ、彼女は途中で轢き逃げされ殺される!
身代金の1000万円を用意した東山社長は、犯人の指定する場所へ赴きますが、ここで京子が出しやばつた為犯人は逃げてしまふ。全く迷惑な奴。警察の動きが何かと犯人側に読まれてゐるので、山内は内部に情報提供者がゐると睨みます。東山社長の秘書・村井(高宮敬二)が京子の幼馴染で、京子に求婚した関係を利用し、京子はこつそり村井のメモ帳を盗みます。その結果分つたのは......?
新東宝も末期の一作で、既に大蔵貢退陣後の作品であります。彼は明治天皇で新東宝を潤はせましたが、放漫経営で結局は会社を窮地に追ひこむのでした。それにしても新東宝作品はクレジットで「出演(者)」といふ字が無い事が多く、スタッフの後にイキナリ俳優の名が出ます。どうでもいいけど。
宇津井健が相変らずの熱血漢を演じます。彼は何を演じても宇津井健。爽やかで一直線。ヒロインは小畑絹子。新東宝を代表する美女。この頃は若い女優にヒロインを譲る場面が多かつたのですが、ここでは準主役的存在。仕事熱心なあまり、宇津井に迷惑をかけてゐますが、後に挽回する金星を挙げます。
実直な青年を思はれてゐた高宮敬二が実は野心家の裏切者で、ワルの仲間御木本伸介が本当は良い奴といふ逆転現象もあります。御木本は今では死語(禁止用語?)となつた「三ツ口」で、時代を感じさせます。
社長令嬢に抜擢されたのが中西杏子。彼女にしては出番が多く、女優人生の中でも代表作かも知れません。新東宝倒産後は東映作品に出てゐたやうですが、その後どうなつたのでせうか。
他は鉄道公安官に伊達正三郎、その彼女に瀬戸麗子、ワルの若宮隆二、宇津井の上司に捜査課長の高松政雄、小畑の上司に編集長の岡竜弘ら。
タイトル通り東海道線の列車が舞台に駆使されます。冒頭ではイキナリ神戸駅が映され、当時の花形特急「こだま」の雄姿が拝めます。憧れのクロ151(パーラーカー)も映つてゐます。食堂車での宇津井と小畑のシーンもよろしい。
終盤では犯人が長崎行急行「雲仙」に乗り込みます。牽引するのはEF58。まる一日かけて終着まで疾駆する列車で、さだまさしさんの想ひ出の列車ださうです。映画では浜松で降りますが。
新東宝アクションらしく、物語は停滞することなくテムポよく展開します。ベタな設定で安定の一作と申せませう。