コミカルにやっても今のコメディ時代劇とは厚みが違う
同じ原作で前に東宝で映画化されている。東宝版では霧の多三郎(三船敏郎)・千四郎(鶴田浩二)の兄弟を主人公にしている。これは原作通りで、この東映版は柳生十兵衛を主人公にしている。柳生武芸帳、というタイトルからは柳生十兵衛が主人公なのは当然じゃないかと思ったりしていたけど、ホントは十兵衛は脇役だったのだ。この柳生武芸帳9作で、近衛十四郎が演じた柳生十兵衛を主人公にしたことにより、時代劇の人気キャラクターにしたのだろう。後に「柳生一族の陰謀」で千葉真一が十兵衛を当たり役にしたし、私の世代では十四郎よりも千葉ちゃんの持ち役と言う感じである。マンガの「ハレンチ学園」で、ヒロインの名前が柳生みつ子だが、通称で十兵衛と呼ばれていることからも、永井豪先生もこの東映版の印象が強かったのだ、と思う。
そういう風になった柳生十兵衛というキャラクターを世に広めたシリーズとなるだろうが、製作がニュー東映ということからも、会社としても力を入れた作品というわけでもない。映画全盛期の時代、作品の量産しなくちゃならないというわけで立ち上げたニュー東映製作なので、まあ二番手というところ。
実際観てみると意外と軽めの作風なのだ。コミカルな面が結構多かったりするし、荒唐無稽な忍者映画の趣向(ふっと消えたり現れたり、煙幕を張ったり、壁の上にビヨ~ンと飛び乗ったり吊りによるジャンプなど)があったりするから、ハードな時代劇とは全然違う気軽に観る映画である。
コメディリリーフである堺駿二がなんと天下の御意見番・大久保彦左衛門の役で、柳生武芸帳を巡る争いを収めようとする重要な役どころなのに、堺をキャスティングしていることでこの彦左衛門も軽くなっちゃうのだった。
そんな軽めで気軽に観る作品であるが、さすがに時代劇の定型を守った作品というところで、セリフ回しや所作はちゃんとした時代劇なのだ。最近はコメディ時代劇が良く作られるが、監督も役者も時代劇の伝統が継承されないままでいるから時代劇が出来ない。その時代劇が出来ないやつらが、現代劇の演技でやってコメディだからねえと言い訳しちゃいそうだ。時代劇の基本がちゃんとあって、それを外してコメディにするから面白みが出るものを元々時代劇ができないやつらがわあわあ喚いているんじゃあ、笑いにもならない。
そんなわけで時代劇もどきの昨今、こういう時代劇を観ると癒されるなあ~。作品としては平凡な出来なんだけど、楽しめた。