混血児リカのシリーズ、第三弾にして最終作「ハマぐれ子守唄」です。よく三作も製作したものです。監督は過去二作の中平康に代り、近代映画協会立ち上げメムバアの一人、吉村公三郎。一般に名匠と呼ばれる人だと存じますが、こんなアウトローなシャシンも撮つてゐたのですね。資金難を救ふ為でせうか。
脚本は引き続き新藤兼人。この人も良くやりますな。嘗ては吉村監督とのコンビで名作を連発した筈ですが。音楽も同じく竹村次郎ですが、今回はコメディタッチの曲調が多い気がしました。
サテ又何かをしでかしたか、リカ(青木リカ)は少年院に戻ります。牢名主の竜巻お万(宗田政美)以下、同室のメムバアはリカをイタブつてやらうと手ぐすねを引いてゐますが、リカの相手では無いやうです。リカは容易く脱走し、ホームグラウンドの横浜へ。そこでリカは黒人女(深沢英子)と娘のジュン(市毛良枝)が心中するのを救ひます。ジュンの父は米人で妻子を棄て失踪したといふ。同じ境遇のリカは純に同情するのでした。
色々あつてリカは又もや少年院へ。リカの脱走の為、とばつちりを喰つたお万たちは、リカをリンチにかけます。手を焼いた兵曹長(大木正司)は「お前ら皆気違ひだ」といふ事でズべ公たちを精神病院送りにします。名前が「ユートピア精神病院」で、人を喰つてゐますね。
精神病院の院長(殿山泰司)は結託してゐて、彼女らを売春組織に売り飛ばす算段をしてゐました。しかし精神病院でも易々と脱走するズべ公たち。リカはジュンが天城に連れ去られたと聞き、早速救出に向ひますが......
三作目ともなると、トンデモ設定にも慣れてきてそれなりに愉しめるやうになります。しかしジュンの両親はアメリカ人父と黒人母なのに、娘の市毛良枝は純和風の顔をしてゐます。頭が混乱するのであります。因みに黒人女を演じた深沢英子とは、有田麻里さんなんですね。顔を黒くしてゐるし、俄かには分かりませんでした。市毛さんがこんな若い時分からこんな映画に出てゐるとは驚きました。オツパイを晒すシーンがありましたが、明らかにこれは吹替ですな。
他にも気になる出演者が......二枚目枠には俳優座の河原崎次郎さんですが、実に似合はない(笑)。院長の初井言栄は、穏やかな人格者の建前と口汚く罵る本音のギャップが面白い。ズべ公の一人に、特撮少年の憧れ・笠原玲子さんが登場。豪快な脱ぎつぷりを見せてくれます。精神病院院長の殿山泰司は近代映画協会の大物なのに、もつと良い役をやらないのでせうか。
更に、青大将田中邦衛が「兵隊キチガイ」なる役で登場。物語にどう関はるのかと思つたら、ワンシーンだけキチガヒぶりを披露して終りでした。何だこれは。ワルの総帥で「ニクイソン」なるふざけた名前の役を演じた清水幹生、これまた特撮少年にはピンとくる顔です。「帰ってきたウルトラマン」の「許されざる命」の回で、合性(合成ではない)怪獣レオゴンを生み出してしまふマッドサイエンティストを演じてゐました。
アメリカ批判は控へ目ながら健在。当時の世相を感じさせるものとして、経済大国となつた日本人を揶揄する「エコノミックアニマル」といふ言葉があります。円が強くなり、ワルどもの取引でも「ドル払ひはやめてくれ、円かマルクにしてくれ」といふ台詞がありました。現在の落ちる一方の日本の国力を思ふと、隔世の感があります。
主役を演じた青木リカは、この後「学生やくざ」での出演が確認できますが、その後は消えてしまつたやうです。元元直ぐに辞める気だつたから、未練は無かつたのでせう。お疲れさまでした。
世間の人は、吉村公三郎だの新藤兼人だのの名前を気にするから素直に鑑賞出来ないのでせう。これは体調の悪い時の鈴木則文が監督したプログラムピクチュアの一作だと思ひ込めば良いのです。お色気アクションコメディとして、気軽に見たら良いんぢやないすか?