シネマヴェーラの荒木一郎特集で初めて観た「鏡の中の野心」は、ピンクの大御所の一人だった小林悟の東活プロに松竹が発注して作られた映画ですが、戸川昌子の原作を、マキノ「次郎長三国志」なども書いたヴェテラン松浦健郎が脚色し、悪役には東宝で「大怪獣バラン」の主役を演じた事もあった野村浩三(明司名義)も出演するという、ピンク映画の枠を超えたかに思える“大作”です。
「鏡の中の野心」は、美容界で地位を築こうとする詐欺師荒木一郎のお話で、彼が一時期ヒモになる美容師葵三津子と性戯に耽る場面で、隣にあるバス車庫で吹かれる笛の音のリズムに乗せて腰を動かすという、下らぬアイディアを、まさか松浦健郎ともあろうヴェテランが書くとは思えませんでしたが、ラストシーンまでその案を引っ張るあたり、もしかしたら松浦健郎のアイディアなのかも知れぬと思い、ちと呆れました。
この映画では、荒木一郎が巨大美容学校に食い込もうと、院長白石奈緒美と夫の理事長野村明司に接近する過程は、まずまず見せたものの、ようやく開業した美容院からルビーが盗まれた事を契機に“ソビメリカ大使館”なる所に荒木が乗り込んで、ハラキリの真似したり、褌姿になったりする展開は、噴飯もので口あんぐりするほかなかったのであり、ピンクの“大作”どころか、“珍作”でしかありませんでした。